ふたり。-Triangle Love の果てに


「そうはおっしゃっても、俺はれっきとしたヤクザですから」


一瞬たじろいだ彼女だったが、すぐに食い下がる。


「あたしが泰輔のことを好きでもダメなの?」


「ええ」


「片想いだから?じゃあ、泰輔があたしのことを好きになってくれたら問題ないのね?」


「マリアさん」


「好きになって、あたしのこと」


気が強いだけじゃない。


押しも強い彼女。


その分、瞳も真っ直ぐだった。


だから逃げることなく俺も彼女を見返した。


「申し訳ありません、それはできそうにありません」


「即答ね」


「あなたにはこの先もっとふさわしい方が現れます。俺のような男とは幸せにはなれませんよ」


「じゃあ彼女は?あなたと一緒にいて幸せじゃないと言ってるの?」


片方の眉をあげた俺にマリアは続けた。


「姉から聞いてたの。泰輔にはれっきとした恋人がいるんだって。ねえ、その人は不幸せなの?」


「参りましたね。ルリ姐さん、そんなことまで」


俺は星の見えない夜空を仰いだ。


マコの口から一言だって不幸だなんて聞いたことはない。


「あなたさえそばにいてくれたら他には何もいらない」とさえ言ってくれる。


それが今は余計につらい。


俺だってあいつを人並みに幸せにしたいと思ってる。


だがヤクザである以上、それがいかに難しいことか最近になって身に沁みてわかった。


「ねぇ、泰輔。どうなの?あなたの恋人は幸せじゃないの?」


「…少なくとも、幸せであるとは言えないでしょうね」


俺の口調が淡々としすぎていたのか、ショックを受けたようにマリアは大きく目を見開いた。


「…だったらなんで一緒にいるの?それって恋人って言える?」


それには答えず、後部座席のドアを俺は大きく開いた。


「早くお乗りください」


「泰輔!答えなさいよ!」


苛立ったように声を上げたマリアとは逆に、俺は静かに言った。


「あなたには関係のないことですから」と。

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