ふたり。-Triangle Love の果てに
さっきまでのはしゃぎっぷりが嘘のように、車内は静まり返っていた。
ルームミラーで後部座席のマリアを見る。
てっきりふてくされているのかと思いきや、目にいっぱい涙を溜めて窓の外の流れていく街並みを見ている。
ミラー越しに視線を感じたのか、はっとしたように目元をぬぐうと重々しく口を開いた。
「姉とあたしは母親が違うの。あたしのママは台湾人で…」
突然の告白にも、俺は無言のままハンドルを握る。
「姉の母が亡くなってから、愛人だったあたしのママが妻に昇格したってわけ。戸籍上の話だけど。今となってはパパは日本で別の女とよろしくやってるわ」
努めて明るい口調だったが、痛々しさは隠しきれない。
「だっておかしいと思わなかった?健吾くんのほうがあたしよりも年上よ。お姉ちゃんだって…自分の子どもよりも年下の妹なんて嫌だったに違いないわ」
お姉ちゃん、というフレーズにややためらいがあったのを俺は聞き逃さなかった。
「まだあたしは4つか、5つだったかしら。前妻さんのお葬式にママとふたり、隠れるように出席したわ。でもお姉ちゃんはすぐにあたしたちがわかったみたい。小学生になってた健吾くんの手をしっかり握ったまま、あたしたち母子をにらんでた…」
声が詰まる。
それをごまかすように、マリアは小さな咳払いをして続けた。
「だから逃げたの。ママの故郷の台湾に。あのお姉ちゃんの目から逃げたくて。今もきっとあたしのこと本当は憎くて仕方ないんじゃないかな」
「それでも日本に来られたのですか」
「お姉ちゃんが招待してくれたの。もし日本が気に入ればこっちに来て大学に行けばいいって」
「で?どうなさるおつもりですか」
「初めから日本に住む気なんてさらさらないわ。ただ、お姉ちゃんに呼ばれたからよ。でも、本当はそれを口実にして、お姉ちゃんはあたしに恨み言のひとつでも言いたいんじゃないかって思ったの。だったら聞いてやろうじゃないの、ってそんな感じで日本に来ただけよ」
「やはりルリ姐さんはあなたに恨み言を?」
「いいえ、一言だって言わなかったわ。それどころかあたしのママの心配までしてくれて。一緒に移り住んではどうかって…面倒はみるからって…」
再びマリアは嗚咽を堪える。