ふたり。-Triangle Love の果てに
「でしょうね、姐さんならそうおっしゃると思います」
俺のその一言に、彼女はため息をひとつついた。
「葬儀の時にお姉ちゃんに睨まれたって感じたのは、あたしとママだけだったのかもしれない。本当は、ただあたしたちを憐れんでいただけなのかもしれない…」
俺は何も言わずに、鶴崎家への道を突っ走る。
「やましい気持ちとか、後ろめたい気持ちがあたしたちにあったから、お姉ちゃんの目を怖いと感じたんだわ」
マリアの様子を見ていると、彼女はルリ姐さんにきっと甘えたいのだろうと思った。
母親とたったふたりで逃げるように台湾に戻り、苦労したことだろう。
だから血をわけた姉にとことん甘えたいのだ。
「明日はルリ姐さんとご一緒に出かけられてはいかがですか。明日で日本は最後でしょう」
「え?お姉ちゃんと?」
「女同士でしか分かり合えない話もあるはずです。たとえば、男の見極め方とか」
あはは、と声をたてて笑うもすぐに寂しそうに「でもお姉ちゃん…ううん姉は忙しいだろうし」
先ほどまでお姉ちゃん、お姉ちゃんと言っていたくせに。
わざわざ「姉」と言い直すところが素直になることに無器用な証拠だ。
「誘ってみてはいかがです。きっと姐さんもお喜びになると思いますよ」
そう言い終えると同時に、車は鶴崎家の立派な門の前に滑り込んだ。
サイドブレーキをかけながら俺は続けた。
「傷付くことから逃げていたら、前には進めませんよ」
俺に自分のことは好きになれって言うくらいなのに、身近で大切な人間には臆病になってしまうタチなのだろう。
「姐さんとの関係がよくしたい、本当はそう思って日本に来られたんでしょう?」
黙ったままのマリア。
俺は運転席を降り、後部座席のドアを開けた。
「ここまでひとりで来る勇気があったんでしょう?だったらもう少し頑張ってみてはいかがですか」
その問いに、彼女はこくんと頷き車を降りた。