ふたり。-Triangle Love の果てに
次の日はマリアからの呼び出しがなかったので、おそらくルリ姐さんと出かけることになったのだろう。
昨夜の最後の一言が効いたか。
久々に昼近くまでゆっくりと眠った。
目を覚ますと、今日もマコの手と頬が俺の背中にぴったりと吸い付くようにくっついている。
それがまるですがりつくように思えて、胸がうずいた。
今の俺には、この女を抱きしめることができない。
触れれば触れるほど、そばに置いておきたくなる。
それがいかにマコを危険な目に遭わせることになるか、重々承知のはずなのに。
噛みしめた下唇が、じん、と熱くなった。
夕方パソコンに向かっていると、マリアから連絡が入った。
今から夜の街、本通りに行きたいという。
俺はすぐさま着替えると、指定された場所に向かった。
昨日とはうってかわって身体のラインを強調した黒いタイトワンピース姿で、周りの男たちの視線を一身に集めていた。
俺を見つけると、手を大きく振りながら「おっそーい」と頬を膨らませてみせた。
待たせたことを詫びてから「今日は姐さんとお出かけになられたのですか」と問うと、彼女は嬉しそうに「うん!」と頷いた。
そのことに関して多くを語ることはなかったが、表情からは楽しい時間を過ごしたのだろうと容易に想像できた。
「今日は日本最後の夜ですね。どういったところがご希望ですか」
「んーとね、なんだかパァッと騒ぎたいの」と言いながら、マリアは両腕を大きく広げた。
彼女のご希望通り、パァッと騒げるところ。
俺は大衆的な居酒屋に連れて行った。
案の定、マリアは他の客と大いに盛り上がり、とうとう足がふらつくまで酒を飲んだ。
途中ルリ姐さんから電話があり、明日の飛行機の時間を考えて早く帰ってくるようにとのお達しがあった。
まだまだ他の客にからんでいく気満々の彼女をなだめながら、なんとか店を出た。
「大丈夫ですか」
ふらふらとよろける彼女に手を差しだすも、ピシャリと払われる。
そしてニヤリと笑うと、「やめてよ、誤解されちゃうでしょ」と意外にもしっかりとした口調で言った。
「ですが、怪我をされては大変ですから」
日付が変わったとはいえ、まだこの時間の本通りは人が多く行き交う。
すれ違う人にぶつかりそうになりながら、マリアはそれでも俺の手を拒んだ。
仕方ない、頑固なところはルリ姐さんとよく似ている。