ふたり。-Triangle Love の果てに
彼女に合わせながら、ゆっくりと歩く。
ぴたりとその足が止まったかと思うと、切なげな声が聞こえてきた。
「ね、泰輔。やっぱりあたしのこと好きになれそうにない?」
俺は微かに唇を持ち上げただけだったが、「そっか、やっぱり無理なのね」とマリアは悟ったように呟いた。
「すみません」
「じゃあこれだけは聞かせて。あなたのその恋人はいい女?このあたしよりも?」
真剣な彼女の顔。
アルコールのせいで、目元から頬がほのかに赤みを帯びている。
「どうなの?」
参ったな…
俺は額に手を当てた。
皮膚の盛り上がった古傷が指先に触れる。
マコ…
「ええ、いい女です。マリアさんには申し訳ないのですが、俺にとって、あれ以上の女はいないと思っています」
俺をしばらくじっと見ていた彼女はうっすらと目に涙を浮かべながら、それでも懸命に笑顔を作った。
「なにそれ。失恋したあたしの前でそのノロケはないでしょ。ほんっとに泰輔ってムカつく」
「すみません」
「…でも…でもかっこいい。そこまで言い切れるなんてね。なかなか照れてそこまで言える男はいないわよ」
俺だってびっくりしてるさ、ここまで言うなんてな。
「今夜はタクシーで帰るわ。フラれた男に送ってもらうなんて、あたしのプライドが許さないから。タクシー拾ってきて」
早くして、とばかりに顎をしゃくるマリア。
停めたタクシーに案内しながら「朝の8時にお迎えに参ります。空港までお送りするようにと姐さんに言われておりますので」と言うと、彼女は首を横に振った。
「気の利かない男ね。さっきも言ったでしょ、フラれた男に送ってもらいたくないの!明日は違う人に空港まで連れて行ってもらうから」
「そうですか」
「元気でね、泰輔」
「マリアさんも」
タクシーに乗り込むその後ろ姿に頭を下げた瞬間、ふわりと首元に巻き付いてくる細い腕。
驚いて身を起こした俺に、マリアはキスをした。
「こんなの海外じゃ挨拶よ、挨拶。いいでしょ、これくらい」
熱を帯びた色っぽい声が耳元でそう囁くと、彼女はひらりと身を翻した。
「じゃあね」
マリアはもう二度と俺を見ることはなかった。
彼女の乗ったタクシーのテールランプが、他の車のものに紛れ込んで見分けが付かなくなるまで、俺はその場に佇んでいた。
この一部始終をあいつが見ていたなんて、まったく気付かないまま…