ふたり。-Triangle Love の果てに
彼が帰ってきたのは、日が高く昇った午前10時過ぎだった。
一睡もせずに待っていた。
寝室に入ってきた泰兄は、ベッドに腰かけたままの私に少し驚いたようだったけれど、「どうした、寝てないのか」と訊ねる声は、いつもと同じ落ち着いたものだった。
何も答えない私。
ううん、答えないんじゃない。
声が出なかったの。
何から話していいのかわからずに…
なぜこんな時間に帰ってきたの?
今までどこで何をしていたの?
ねぇ…あの女性は誰?
どうしてあなたは、あの人のキスを受け入れたの?
聞きたいことはたくさんあるのに、心が千々に乱れて冷静になれない。
「どうした」
ネクタイを緩めながら、のぞきこんでくる泰兄。
「なぜ泣いてる」
そんなとぼけたふりしないで。
わかってるでしょ?
胸がつかえて、痛い。
声は出ないのに、涙だけは次から次へと溢れてくる。
「黙ってたらわからないだろ」
…本当に?
本当にわからないの?
「昨日の…昨日の夜は…」
かろうじて出た声は、完全にかすれていた。
「…どこにいたの?」
微かだったけれど、彼の表情が強ばったのを見逃さなかった。
「事務所に詰めていたが、それがどうかしたか」
嘘…
嘘、嘘!!
私から視線をそらしてネクタイを取った彼。