ふたり。-Triangle Love の果てに


彼が帰ってきたのは、日が高く昇った午前10時過ぎだった。


一睡もせずに待っていた。


寝室に入ってきた泰兄は、ベッドに腰かけたままの私に少し驚いたようだったけれど、「どうした、寝てないのか」と訊ねる声は、いつもと同じ落ち着いたものだった。


何も答えない私。


ううん、答えないんじゃない。


声が出なかったの。


何から話していいのかわからずに…


なぜこんな時間に帰ってきたの?


今までどこで何をしていたの?


ねぇ…あの女性は誰?


どうしてあなたは、あの人のキスを受け入れたの?


聞きたいことはたくさんあるのに、心が千々に乱れて冷静になれない。


「どうした」


ネクタイを緩めながら、のぞきこんでくる泰兄。


「なぜ泣いてる」


そんなとぼけたふりしないで。


わかってるでしょ?


胸がつかえて、痛い。


声は出ないのに、涙だけは次から次へと溢れてくる。


「黙ってたらわからないだろ」


…本当に?


本当にわからないの?


「昨日の…昨日の夜は…」


かろうじて出た声は、完全にかすれていた。


「…どこにいたの?」


微かだったけれど、彼の表情が強ばったのを見逃さなかった。



「事務所に詰めていたが、それがどうかしたか」


嘘…


嘘、嘘!!


私から視線をそらしてネクタイを取った彼。



< 288 / 411 >

この作品をシェア

pagetop