ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
ネクタイを壁に打ち付けると、俺はどっかりとリビングのソファに身を委ねた。
「くそっ」
まさかあのキスを見られていたとは。
だが俺には、マリアとの間に何もやましいことはない。
こんな時間に帰ってきたのも、あれから橘組の事務所に寄り、そのままマリアが鶴崎家を出発するのをルリ姐さんと見送ったからだ。
結局、鶴崎組の若い衆が空港まで車を出したのだ。
彼女は俺の見送りなどいらないと言ったが、そういうわけにもいかない。
では、なぜそのことをきちんとマコに説明しないか…
どうしてマリアはルリ姐さんの妹で、来日中は俺が案内役を務めていたのだと言わないのか…
それは、これがこの世界の暗黙の了解だからだ。
逐一自分の行動の全てを女に報告などしない。
たとえそれが「特別な女」であってもだ。
ましてや姐さんに関することをペラペラと口にすることはできない。
寝室から、マコのすすり泣く声が聞こえた。
あいつはここを出て行くかもしれない。
裏切られた、そう思って俺のもとを去ってしまうかもしれない。
仕方ないと言えば、仕方ないことなのだが…
割り切れるだろうか。
あいつのためだと思えばいいのだろうが、果たしてそれが俺にできるのか。
彼女の泣き声はしばらく続いた。
たまらず重たい身体を引きずるようにして、俺は玄関に向かった。
マンションを出ると、憎たらしいほどに青い空を飛行機雲がふたつに割っていた。