ふたり。-Triangle Love の果てに
バルコニーの花は枯れるまではいかないものの、依然元気がない。
マコは毎日その葉に触れては物思いにふけるように、しばらくその場にしゃがみこんだまま。
確か、サフィニアと言っていたか。
「今から出かける。今夜はたぶん帰らない。仕事が終わって勝平に送らせた後は、鍵を必ず閉めろ。バルコニーも窓も全てだ」
「……」
抱えた膝に顎をのせ、視線は花を捉えたまま微動だにしない。
「聞こえたのなら、それなりの反応をしろ」
「…わかったわ」
「何かあればすぐに連絡しろ」
「何もないと思うけど」
大きなため息をひとつ、俺は額に手をあてた。
俺たちの間には完全に溝ができていた。
日に日にそれは深く、そして広がってゆく。
「行ってくる」
「…花がね」
小さな、本当に小さな消え入りそうな声だった。
「花がどうした」
俺は足を止め、その続きを待った。
「元気ないの」
「ああ、そのようだな」
「どうしてかしら、一生懸命愛情を注いできたのに」
俺たちのことを言ってるように思えた。
だからこそ、何も答えられない。
「もうダメなのかも…このまま枯れてしまうのかしら。あなたはどう思う?」
「……」
言葉が見つからない。
そのうち元気になるさ、とでも言えばいいのか?
肥料でもやってみたらどうだ、とでも?
そんな軽々しい返答を彼女が求めていないことくらい、わかってる。
それには答えず「行ってくる。くれぐれも気をつけろよ」と俺は上着を片手に玄関に向かった。
あいつが今どんな顔をしているのか簡単に想像できる。
だからこそ振り返ることなく、俺は部屋を出た。