ふたり。-Triangle Love の果てに
約束の時間よりも10分早く、俺は彼の事務所「アペルト」に来ていた。
通された応接室で、持ってきていた書類に確認のため目を通す。
「すみません、相原さん。お待たせいたしました」
「お忙しいようですね」
「おかげさまで」
何度も頭を下げながら、高雄は俺の前に腰を下ろした。
「こちらにいらしたということは、我々がもうあの手続きに入ってもいいということでしょうか」
「ええ、よろしくお願いします」
ここはプライベートバンク。
海外の金融システムを知り尽くした人材をそろえ、個人資産を専門に管理し運用する銀行のことだ。
一般の銀行のように、貸し付け業務などは一切しない。
そのプライベートバンクのバンカー、高雄は元は日本有数の金融機関に勤めていた。
しかし、年功序列だとか何かと縛りの厳しい日本の金融機関の体質に嫌気がさし、今のプライベートバンクに移ったという。
俺がこの高雄を担当バンカーに選んだのには理由があった。
まず、若いが口が硬く優秀であること。
次に、圭条会先代総長の個人資金管理を若干26歳で任されていたこと。
「スイス本店のプライベートバンクに、香港支店での口座開設と金融債を換金して入金したいという旨を伝えられましたか」
「ええ、言われたとおりに」
「結構。ではすぐに香港支店が日本の代行会社に、あなたがたの金融債を換金するように依頼したことでしょう」
俺がAGEHAの次に圭条会の資金源にしようとしていること、それはマネーロンダリング。
組織のフロント企業に課せられるはずの税金を免れた金、それを隠すのには限界がある。
そこで目をつけたのが、これだ。
脱税した金で買い集めた数億円単位の金融債を換金し、海外の口座に入金する。
その入金もいくつもの銀行を経由して行われる。
プライベートバンクは常に莫大な金を動かしているため、一度に多額の金融債を換金しても怪しまれることはない。