ふたり。-Triangle Love の果てに
昼食をとろうと社員食堂に足を踏み入れた。
ちょうど昼時で混み合っている。
定食をのせたトレイを持ち、どこに座ろうかなと辺りを見渡す。
そこに先ほどの北村翠がひとりで食事をとっているのを見つけた俺は、ためらうことなく声をかけた。
「ここ、いい?」
はっと顔をあげた彼女は俺を見るなり「片桐先輩ですか、びっくりしちゃった」と笑い、どうぞ、と目配せした。
右目尻のほくろがチャームポイントの彼女。
本人は整形で除去したいなんて言ってたけど、あったほうが魅力的だと思う。
「さっきはコーヒーありがとう。おいしかったよ」
「わざわざそれを言いに?」
「うん、言いそびれちゃったもんだから」
クスクスと笑い「律儀ですね」と、彼女は止めていた箸を動かし始めた。
「あれ?左利きだっけ?」
「ええ。女の左利きは不格好だって祖母に言われました」
「そうかな、俺はそうは思わないけど」
「昔の人だから。でも今は左利きで困ったことなんてありません。だってハサミだって左利き用もあるし、前は駅の改札に切符を通すのに手間取ったこともありましたけど、今はICカードでしょ。ピッで簡単。左利きだからって、全然苦になりません」
「そうだね」と俺も笑って返した。
「あ、ひとつだけ苦手なものがありました」
「何?」
「習字」
「あれは右利きの俺でも苦手だよ」
そんな具合にたわいもない話で盛り上がる。