ふたり。-Triangle Love の果てに
バタバタと出勤していくお兄ちゃんを見送ると、私は洗濯機のスイッチを押して、朝食の後片付けと部屋の掃除をする。
それが終われば、やっとお風呂に入れる。
家賃5万円の2DKの2階建て木造アパートの1室。
築30年は裕に超えている。
シャワーはついていないし、隣の部屋の音は筒抜け。
歩くたびに床はきしんで、畳は沈む。
だけど贅沢は言ってられない。
こんな都会の片隅に、5万円で兄妹ふたりが住めるのだから。
脱衣所兼、ダイニングで服を脱ぐ。
髪には煙草ときつい整髪料の匂いが入り混じっていて、今さらながらに顔をしかめてしまう。
夜の匂い、そう私は呼んでいる。
ワックスとスプレーで固めたその髪と濃いアイメイク、そして真っ赤なルージュは、夜の世界で生きる中で私には欠かせない。
女だからとなめられてはいけない、そんな思いの表れがいつしかこの鎧を作り上げていた。
「変身」した私は、何の気後れもすることなくあのカウンターに立てる。
蛇口から出る湯を洗面器で受けながら、私は念入りに髪と顔を洗った。
そして曇った風呂場の小さな鏡に映し出されたその顔は、無防備な「私」自身だった。