ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐真琴~
シトラスの店内に驚くほどたくさんの花が生けられてした。
甘い香りに、思わず深く息を吸い込む。
「どうしたんですか、こんなにたくさんのお花」
花瓶に生けられた、見上げるほどの立派な花たち。
ほとんどが高価なものばかりだ。
「ここ最近、よく来てくださるお客さまがね」
そう言って、困ったように小首を傾げる。
どうも橘さんじゃないみたい。
彼はこんなことするタイプじゃないし、もし仮に彼だとしても、ゆり子さんがこんな微妙なリアクションをするわけがない。
「どんな方ですか」
「だいたい開店と同時にいらして、モーニングを食べて帰られるのよ」
私が知らないのも無理ない。
「おいくつくらいなんですか」
「さぁ、50は過ぎてると思うけど」
「お仕事は何をされてるんでしょうね」
「さぁ、そこまでは…ちょっと真琴ちゃん、おもしろがってるでしょ」
「バレました?」
「もうからかわないで。正直困ってるの」
「困ってる?」
「いろいろと誘ってくださるのよ、食事とか…」
それはゆり子さんに気があるということ。
橘さんに相談してみたらどうですか、そう言いたかったけれどやめた。
きっとあの人のことだから、「そうか」で終わりそう。
ゆり子さんもそれがわかってるから、彼には言わないんだと思う。
橘さんとゆり子さん。
相変わらず、何の進展もないふたり。
ただ同じ空間で、同じ時を過ごすだけ…
それでゆり子さんは満足なのかな。
もっとそばにいたい、もっともっと彼のことを知りたいって思わないのかな。
私なら…
「このお花、少し持って帰る?部屋に飾ると雰囲気が明るくなるわよ」
彼女の言葉にはっと我に返る。
「…いえ、私が持って帰ったら、せっかくの花もしおれてしまいます。そんなことになったらかわいそうだから」
「真琴ちゃん?」
「バルコニーのサフィニアだって、はじめはすごく元気でいっぱい花を咲かせてくれたのに、もうすぐ枯れてしまいそうで。向いてないんでしょうね、私、そういうこと。だから…」
「それは、あなたに元気がないからよ」
「え?」
「植物ってね、かわいがってくれる人が落ち込んだり悲しんでたりすると、自分も同じようにしょげちゃうんだって」
ゆり子さんは花瓶の花を調えながら続ける。
「松なんて大事にしてくれてた人が亡くなったら、枯れちゃうんだって」
枯れちゃう?
本当に?
「彼とうまくいってないの?」
優しいトーンの問いかけに、はい、と素直に頷いた。