ふたり。-Triangle Love の果てに
Yesterdayの仕事を終えて、空を見上げた。
勝平さんの赤ちゃん、生まれたのかな…
男の子かな、女の子かな。
そんなことを考えながら、マンションへの道のりをどこか満ち足りた気分で歩いていた。
夕方の憂鬱な気持ちは、嘘みたいに吹き飛んでいた。
だって、新しい命がこの世に誕生するんだもの。
とっても神秘的でステキなこと。
いつか勝平さんの赤ちゃん、抱っこさせてもらいたいな…
その時、後ろに何かの気配を感じた。
咄嗟に振り返るけれど、誰もいない。
忘れかけていた恐怖が、じわじわと蘇ってくる。
辺りを見回して、タクシーを探した。
だけど、あいにくここは車両進入禁止区域。
私は早足で歩き出した。
建ち並ぶビルにヒールの音がこだまする。
いつの間にか、後ろからいくつもの足音が追いかけてきていた。
怖い…どうしよう…
走り出した私を追いかけてくる、不気味な靴音。
角を曲がった。
振り返らずにまた走り、次の角も曲がった。
それでも「誰か」がついてくる。
こんな時に限って誰もいない。
私はひたすら走った。
どこをどう行っているのか定かではなかったけれど、助けを求めてただ走った。
なのに、どこの店もシャッターを下ろして人の気配もない。
泰兄に電話をしようとバッグに手を突っ込んだ瞬間、ヒールが舗道タイルの割れ目にひっかかり転倒してしまった。
遠くから「どっちに行った?」「こっちだ」という男の声が重なり合う。
私は無我夢中で散らばったバッグの中身をかき集めた。
得体の知れない男たち。
捕まったら、今度こそただじゃすまない。
後方を気にしながら立ち上がった時、誰かに肩を強くつかまれた。
「こっち!早く!」
その横顔に見覚えがあった。
彼は私のバッグを代わりに持つと、勢いよく手を引っ張った。