ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
ゆっくりとふたりに近付いた。
健吾さんはそんな俺に気まずそうな笑いを向けると、マコの手を離した。
「泰兄…」
「健吾さん、その女を助けていただきありがとうございます」
「別に。通りがかっただけだし」
彼はその手をポケットに突っ込む。
一方マコは、俺と健吾さんを交互に見ながら一体どういうことなのかと言いたげだった。
が、すぐに俺たちの関係を察したようだ。
「それより泰輔、俺が花屋で働いてるってよくわかったね。なんで?いつわかったの?」
肩をすくめておどける。
「随分前からわかっていましたよ。手の傷や荒れ方を見てね」
なるほどね、と自分の手のひら甲を街灯にかざすように見る。
「こっちに来い」
俺はマコに向かって言った。
乱れた髪をしきりに撫でながら、俺の後ろに隠れるように立つ。
「ね、あのサフィニア、ちゃんと咲いてる?」
それには答えず、「今のは須賀一家の連中でしたか」と俺は訊ねた。
「違うね」
あっさりと切って捨てるような返答。
彼は再び両手をポケットに突っ込むと、俺に歩み寄った。
そして真横に並ぶと「あいつらは」と白み始めた空を見上げてため息混じりに言った。
「あいつらはうちの、鶴崎組の若い衆だよ」と。
目の前に青白い顔をした勝平が頭を下げたまま、微動だにしなかった。
俺が何かを言うまで、ずっとそのままでいるつもりなのだろう。
マコは必死に勝平をかばう。
「私が言ったの、病院に行くようにって。勝平さんはちゃんと泰兄に言われた通りに、私を送り届けようとしてくれたわ。でも断ったのよ」
「いえ、すべて俺が真琴さんにお願いしたことです。俺のせいでこんなことになって…」
「違うわ、私が言ったのよ。それにケガはしてないんだし、いいじゃない」
「お互いをかばい合うのは、もういい」
俺は手をあげてふたりを制した。
「勝平、今日はもう帰れ。いいと言うまで俺の前に姿を見せるな」
「泰兄!」
俺は寝室に入り、クローゼットから新しいシャツを出し袖を通した。
勝平を見送ったマコが俺の後ろに立つ。
鏡を通して見るその顔は険しい。
「どうしてあんな言い方をするの」
ネクタイを締める俺と、ミラー越しに目が合った。
マコは、彼は悪くないんだといったことを切々と語る。
女にとっての初めての出産はどうのこうの…と。
経験したこともないくせに、だ。
「聞いてるの?」
苛立ったように彼女は俺の腕をつかんだ。
「手を離せ」
「泰兄」
「手を離せと言ってるんだ」
普段よりも一段と低い俺の声に、彼女は渋々手を下ろした。
それを見届けてから俺は言った。