ふたり。-Triangle Love の果てに
「おっと、焦らないで。それを教える前に条件があるんだけどな」
条件?と眉をひそめた俺に、健吾さんは笑って「そう、条件。それをのんでくれなきゃ教えられない」と倒れている男ふたりに目をやった。
「何でしょう、俺にできることであれば何でもします」
「それは彼女のため?えっと、真琴さん、だったかな」
そうだ、あいつのためだ。
マコを守るためなら、どんなことでもするだろう。
なのに俺はこう答えた。
「鶴崎組と橘組の間で今回のような諍いはあってはならないことです。そのためです」と。
「ふぅん、なるほどね。あくまで組織のためなんだね。ま、いいや。じゃあ、条件言わせてもらうよ」
「どうぞ」
「俺に真琴さんをくれないかな」
「…今なんと…?」
聞き間違いかと思った。
だけど、彼はもう一度俺に向かってはっきりと言った。
「彼女が好きなんだ、譲ってよ」
一瞬にして身体が熱くなる。
「ご冗談を…」
動揺を隠すためにあえて笑ってはみたものの、口元がひきつっているのが自分でもわかった。
「俺は至って本気だよ。彼女、いつも俺のいる店に花を買いに来てくれるんだ。どんなに俺が無愛想にしてても、必ず笑ってくれる」
今の俺は一体どんな顔をしているのだろう。
健吾さんの目には、一体どう映っているのだろう。
「気がついたら好きになってた。でもあんたたちさ、夜明けの本通りで毎日会ってたろ?それを知ってあきらめようと思った。だって、他ならぬ泰輔の彼女なんだから」
彼は見てたのだ。
俺とマコがAGEHAの前でいつも抱き合っていたのを。
健吾さんは続ける。
表情を変えることなく、淡々と。
「だけど彼女、この頃ちっとも幸せそうじゃない。輝いてない。原因はあんたしかいない、泰輔」
黙っているしかない俺。
「何か言ったらどう?」
一体何をどう言えばいいというのか。
健吾さんはマコに惚れていて、俺があいつと別れることを望んでいる。
あいつが幸せそうじゃないのは、俺のせいだからとも言っている。
まさしくその通りだ。
「何も言うことがないみたいだから、この条件はのんでくれるって解釈していいのかな」
腕を組み、窓に寄りかかる若者。
10年前、直人さんについていくと言った俺の手を掴んで「いやだ」と泣いていた少年が…
『泰輔、今日は誕生日だろ。お祝いしようよ』と小遣いでこっそり買ったコーラを手渡してくれた少年が…
今まさにここで、俺の最愛の女を愛していると、欲しいと言っている。
庭の男たちに目をやった。
こいつらを使ってマコを狙う人間を、この健吾さんは知っているという。
どうしても知りたい。
あいつのためならどんなことでもすると誓ったのに、ためらっている。
マコを手放さなければ、守れないなんて皮肉な話だな…