ふたり。-Triangle Love の果てに
「わかりました。あいつとは別れます。ただし、その後は健吾さん次第ですよ」
できるだけ平静を装って俺は告げた。
みぞおちの辺りが、ひどく重苦しい。
「がんばるよ、俺。必ず彼女を振り向かせてみせる」
ニヤリと笑うと、彼は窓を大きく開け放った。
初夏の風が何の遠慮もなく、室内に入り込んでくる。
心地いいはずの風が、心に凍みるようだった。
俺は目を閉じた。
これでいいのかもしれない…
マコをこのまま俺のそばに置いておけば、さらに傷付けてしまうだけなのかもしれない。
愛し方のわからなくなった俺と一緒にいても、あいつだって苦しいはずだ。
大きく息をついた瞬間、「だから泰輔はダメなんだよ」と健吾さんが噴き出した。
「前に言ったよね?恋愛に関しては硬派なのかと思ってたけど、意外と大胆なんだってね。でもあれは撤回。意外と気が小さいんだね」
目の前の、俺より少し背の低い青年。
「怒れば?何を寝ぼけたこと言ってんだ、俺の女に手出すんじゃねぇ、って何で言わないわけ?昔、俺が死にたいって言った時に、あんた怒鳴って泣かせただろ?その時みたいになんで怒らないの、ねぇ泰輔?」
「健吾さん…」
「あんた、彼女のこと好きなんだろ?なのにそれをちゃんと伝えてないんじゃないの?だから彼女もああなるんだよ。こうやってあっさりと俺の条件をのんだのも、自分に自信がないんだろ、違う?これが彼女のためだなんて思ってたりするわけ?」
彼が目をつり上げてまくしたてるのを、俺は今の今まで見たことがなかった。
「ばっかじゃないの?勘違い、独りよがりもいいとこだよ。こんなとこでかっこつけんなよって感じ。気持ちを伝えるのに、遠慮してどうすんの」
どんっと俺の左胸を彼は拳で突いた。
じわりと鈍い痛みが時間をかけて広がってゆく。
「真琴さんには、あんたしかいない。あんたもそうだろ?何をグズグズしてんの。マジで俺が取っちゃうよ、彼女のこと。あんなこと俺に言われて、さっきからあんた、すっげぇ怖い顔してんの気付いててないの?本当は彼女がいなくなるのが、嫌で嫌で仕方ないくせに」
そしてもう一度彼は拳を俺の胸に押し当てると
「彼女を襲わせたのは、AGEHAのちぃママの京香だよ」と低い声で言った。