ふたり。-Triangle Love の果てに
姐さんが言った通り、昼前に戻ってきた鶴崎組長。
酒を飲んだわけでもないのに、顔は心なしか上気していた。
ルリ姐さんの心配は図星のようだ。
今度は一体どこの女に目をつけたのだろう。
俺は近況報告をしてから鶴崎家を後にした。
早速、ある人物に電話をかける。
「さっきおまえに暇を出したばかりだが、それを撤回する。今からAGEHAの京香を連れて橘組の事務所に来い」
相手は恐縮した声で了解しました、と答えたが、どこか嬉しそうだった。
単純なやつだ。
ほどなくして勝平がひとりの女を連れて事務所に現れた。
彼女はなぜAGEHAの前オーナーである俺に今頃呼び出されたのか見当がついているらしく、青ざめて怯えきった顔をしていた。
「座れ」そう指示しても、なかなか動こうとしない。
どうせ色仕掛けで鶴崎組の若い連中を取り込んで、マコを襲わせたのだろう。
今そんなにビビるくらいなら姑息な手を使うな、と言いたかったが、今さらどうなるものでもない。
「おまえが俺に何か言いたいことがあるらしい、と小耳にはさんだんだが。面と向かって言えばいいものを回りくどいことをしてくれたな。で、なんだ俺に言いたいことって」
「……いえ」
「言ってみろよ」
すると観念したように彼女は口を開いた。
「…私、オーナーが…相原さんが好きでした。だから…」
かろうじて聞き取れる声でそこまで言うと、唇を噛む。
身を固くしてうつむいたまま、足が小刻みに震えていた。
「それ以上はもう言わなくていい。わかってるんだろ?」
はい、ときつく目を閉じた京香。
俺はこの女をいたぶるつもりはない。
こいつが今回の手段に出た理由は、俺にもあるのだから。
「俺からもおまえに話がある。まぁ、座れよ」
京香はおそるおそる向かい側に腰を下ろした。
「今日付でおまえをAGEHAから解雇する」
でしょうね、そういう表情で彼女はうなだれた。
「…わかりました」
そう一礼をして席を立とうとする。
「待て、まだ話は終わってない」
きょとんとした彼女の肩を勝平がそっと押すと、すとんと再びソファーに沈む。
「AGEHAを辞めてもらう代わりに、新しい店のママをしてもらいたい」