ふたり。-Triangle Love の果てに
え?と狐につままれたような表情の京香に俺は続ける。
「おまえは俺が苦労して、大金を貢いでまで引き抜いたんだ。これではい、さようなら、は割に合わないだろう」
「でも私はオーナーの大切な…」
そうだ、おまえは俺の大事なマコを傷付けようとした。
しかも自ら手を汚すことなく、な。
それは許し難いことだ。
だが…
「俺の話を最後まで聞け。ただし行ってもらうのは県外の店だ。そこは圭条会の傘下組織がしきっているが、ここに比べれば田舎で客の質も落ちる。それでもいいか」
膝の上の手をぐっと握りしめたまま、京香は目をうるませた。
「充分です、充分すぎるほどです…」
「じゃあ、すぐに支度に取りかかってくれ」
「相原さん、どうか彼女に謝罪をさせてくだ…」
「悪い、忙しいんだ。明日にはここを発てるようにしておけ。組から何人か手伝いに行かせる。勝平」
「はい」
「俺は今から何かと片付けなきゃいけないことがある。京香の件はおまえに任せる。今度こそ最後までやり通せ」
「はいっ」と顔をしわくちゃにした勝平を見届けると、俺は事務所を出た。
全てのカタをつけ自宅マンションへ向かったのは、日付が代わり太陽がずいぶん高くまで上ってからだ。
ランドセルを背負った小学生が、甲高い声ではしゃぎながら通りを急ぐ。
長い一日だったな。
重たい身体を引きずるようにして、俺はやっとの思いで部屋にたどり着いた。
ネクタイを緩めながら、寝室をのぞく。
そこにはマコが俺の枕に背を向けるようにして眠っていた。
こんなにも広いベッドなのに、隅っこで小さく身を縮めて…
まるで誰からも見離されたような子猫だ。
ベッドに入ると、俺はその肩を抱いた。
それに目を覚ました気配があったが、彼女はこちらを向こうとはしない。
マコ…
今日は俺がおまえの背中を見ながら眠る。
いつもとは逆だな。
彼女の呼吸に合わせて、俺の腕が小さくゆっくりと上下する。
それを感じながら、静かに目を閉じた。