ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐勇作~
ここ数週間、泰輔兄さんは本通りから少し外れたオフィス街にある比較的新しいビルによく出入りしていた。
そこにはいくつか会社が入っているが、俺には彼が何階のどの会社に用があるのかはわかっていた。
「アペルト」、プライベートバンクのひとつだ。
スペイン語で「開かれた」という意味らしい。
かなりきわどい取引をしていることを、俺はこの数ヶ月の間でひそかに調べ上げていた。
このアペルトには圭条会前総長の個人資産の管理を一手に引き受けていたという敏腕バンカーが在籍している。
その男の名は、高雄。
きっとその高雄と泰輔兄さんは接触をしているに違いない。
確証はないが、間違いないだろう。
そんなやり手バンカーと圭条会の人間が会う理由と言えば、「資金隠し」の可能性が高い。
税金を逃れた金が、闇のなかを密かに動いている。
必ず俺がそのシッポをつかんでみせる。
必ず泰輔兄さんを打ち負かしてみせる。
俺は黒いファイルを閉じると、目頭を強く押さえた。
ここに至るまでには、北村翠の協力が不可欠だった。
県警取材班の一員である彼女を、俺は恋人としての立場からうまく利用した。
かねてから組織犯罪対策課の中に、圭条会とつながっていると噂のある50代半ばの浅井という刑事がいた。
階級は警部補。
ぬきうちで行われる圭条会本部事務所の家宅捜索の情報を漏らし、その見返りに金品を受け取っているらしい。
しかも彼には、パチンコや競馬による借金が数百万にものぼることを俺は突き止めていた。
だからその刑事に目をつけた。
圭条会とのつながりもあって、ちょうどいい。
うまくいけば、組織に打撃を与えられる。
そして泰輔兄さんにも…
しかも須賀一家と圭条会のからむ発砲事件も曖昧なままだ。
俺が全てを白日のもとにさらしてやる。
翠にその浅井警部補に接近するように言った。
当初、絶対嫌だと拒んでいた彼女だったが、俺の「一生に一度でいい、スクープが欲しいんだ。それには君の協力が必要なんだよ。それに万年ローカル記者でいるよりも、何かひとつくらい大きな事件を出し抜いた男の方が、君のご両親だって交際を認めてくれるに違いない」という言葉に渋々承諾してくれた。
まもなく彼女はその浅井のお気に入りの記者になれたようで、いくつかの情報を俺にもたらしてくれた。