ふたり。-Triangle Love の果てに
そのひとつが高雄という男の存在。
この男、警察にとってもやっかいなやつのようだ。
脱税の手助けをして一度は検挙されたものの、「暴力団の隠れ資金だとは全く関知していなかった」と終始主張した。
知らなかったわけはない。
だが逆に知っていたという証拠もなかったため、罪に問われることはなかった。
これには警察も煮え湯を飲まされた思いだったようだ。
そして、もう一つの重要な情報。
それは本通り一の高給クラブAGEHAのオーナーがつい最近交代したということだ。
つまり泰輔兄さんがオーナーの座を退いたということ。
こういうことは暴力団関係の店舗なだけあって、警察側も常時把握しているらしい。
ここでひとつの疑問が浮かび上がる。
じゃあ彼は、オーナーを辞めた泰輔兄さんはこれから一体何をするんだ?
最近勢いのある橘組の組長代理まで務めた人だ、じっとしているわけがない。
こうして俺の泰輔兄さんへの尾行が始まった…
彼の自宅マンション前で張っていると、午後2時を過ぎた頃に真琴がエントランスから出てきた。
いつの間にか女のとしての魅力に充ち満ちている。
なめらかな身体のラインはますますしなやかなカーブを描いていたし、一言でキレイになっただけでは言い尽くせないほどだった。
彼に愛されているのだ、まざまざとそう思い知らされた。
そしてどこか悩ましげで憂いを帯びた美しさと、ほうってはおけない雰囲気を全身から発している。
ヤクザの恋人を持った以上、何かと真琴も気苦労が絶えないだろうに。
俺なら無用な心配を愛する女には決してかけたりはしない。
遠ざかってゆく真琴の後ろ姿を見送りながら、俺は苦しくて苦しくてたまらなかった。
来る日も来る日もこのマンションを張り込んでいたが、泰輔兄さんに目立った動きはなかった。
やっぱりこのまま彼は動かないのかもしれない。
橘組のナンバー2だ。
何もしなくても金は懐に入ってくる。
そう思ってこの張り込みをあきらめようとしたが、真琴の姿を見たくて、気がつけば毎日彼の自宅前に通い続けていた。
それが功を奏した、とでも言うのだろうか。
どこかで見たことのある男が、泰輔兄さんのマンションに入っていったのだ。
誰だったかな…手帳をパラパラとめくって一枚の写真を目にした瞬間、鳥肌がたった。
高雄だ!
あのプライベートバンク、アペルトの高雄だ!
興奮して手が震えた。
ついに来た…
彼らは接触を開始したんだ…!