ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐真琴~


シトラスのゆり子さんが、困り顔でカウンターの小箱を見つめている。


有名ブランドのネームが入った包装紙。


いつもモーニングを食べに来られるお客さんにもらったそう。


「あのたくさんお花をくださった方ですか?」


私が訊くと「お断りしたんだけど」と彼女はそれを手に取った。


橘さんには見せたくないのだろう、その小さな包みをキッチンの奥に隠すようにしまった。


橘さんだって、ゆり子さんとのことをハッキリとしてくれればいいのに。


彼女がこんなに想ってるのを知ってるくせに。


これだから男の人って…


口にすべきことではないのはわかっていたけれど、何か一言嫌味のひとつでも言ってやりたかった。


泰兄のことと少しダブったのかもしれない。


「橘さんに見せつけてやればいいんです。ゆり子さんが他の男性に言い寄られてるってこと」


驚いたような顔をした後で、ゆり子さんはクスクス笑う。


「そうね、そうしてみようかしら」って。


こんな恋に悩んでる時でさえ、彼女の八重歯はチャーミング。


そこにタイミング良くドアベルが鳴って彼が入ってくる。


「いつもの」とだけ告げて窓際の指定席につくと、本を開いた。


恋って複雑。


前は両思いになれさえすれば、一直線にハッピーエンドだって思ってた。


だってお互い好き合ってるんだもの。


でも、好きだからこそ悩んだり苦しんだりして…


片想いの時よりも、ずっとずっと大変。


はじめは相手を想うだけで幸せだったのに、今は想えば想うほどにつらくて切ない。


寄り道ばかりして、ちっともゴールできない「恋」。


ううん、ゴールがどこにあるのかさえもわからない。


まるで恋の森に迷い込んだよう…


同じ所をぐるぐる回って、うっそうとした木々に光が遮られて昼か夜かさえも定かでない。


どっちから来たのかも、どこへ行こうとしているのかもわからない、そんな「恋の迷子」。


それはきっと私だけじゃない。


きっとゆり子さんも、橘さんも。


…そして泰兄も…


私たちは恋の森へ立ち入ってしまった、幼い子どものよう…

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