ふたり。-Triangle Love の果てに

「なぁ直人よぉ、大事な女なら変なムシがつかんようにちゃんと見張っておけよ。こんな美人、あっという間に俺みたいなのが群がっちまうぞ」


足下の橘さんを見下ろすと、そう言って組長は笑った。


何事もなかったかのように、静かにいつものドアベルが鳴り組長は店を出て行った。


時間が止まってしまったかのようなシトラスの店内。


私は突っ立ったまま、今起きた出来事に信じられない思いでいた。


ゆっくりと橘さんは顔をあげるも、視線は床に落としたまま。


ゆり子さんがそろそろと崩れるように、その場に座り込んだ。


「どうしてあんなことを…」って泣きながら、細い手で彼の肩をつかんで揺さぶる。


「あなたのお立場が悪くなったら、どうなさるおつもりだったんですか。あなたには守らなければならない、若い人たちがたくさんいらっしゃるでしょう?私なんかよりも、ずっとあなたを必要としている人たちがいらっしゃるでしょう?」


それに対して、身じろぎひとつしないまま彼は言った。


「…わかってる。わかっていたが、どうしようもなかった」


ねぇ、泰兄。


今、私たちはひとつの愛が紡がれるのをこの目で見ている。


寄り添いたくても、なかなかできなかったふたりの想いが、今やっと叶おうとしている。


私たちは、その愛の「目撃者」。


胸が熱くなった。


「来い」


息のような声の泰兄は、私の腕をつかんだ。


足がもつれるほどに強く引くその手。


太陽の光に目を細めて初めて、私は店を出たのだと知る。


泰兄はかまわず早足で歩き出す。


「待って」と私は彼の手をはずし、引き返した。


閉じかけたシトラスの扉。


その隙間から見えたの。


橘さんとゆり子さんの愛が実った瞬間が。


彼が、あの橘さんが…


ゆり子さんを抱きしめてた。


強く、強く…


お互いが全身で「愛してる」って叫んでるみたいだった。


ドアにかけてあるプレートをOPENからCLOSEDへとひっくり返して戻ると、泰兄が笑ってくれた。


そしてまた私の手をとると、本通りの人の波の中に向かって走り出す。


「泰兄!ゆっくり!」


人にぶつかりそうになって目をつぶっても、不思議なことにうまくかわしていた。


それは泰兄が手を引いてくれているから。


人の合間をうまくすり抜けていく。


初めは怖かったけれど、次第に彼が手をつないでいてくれたら大丈夫な気がしてきた。


だってこうやって彼は私を導いてくれている。


「泰兄!」


振り返った彼が、また笑ってくれた。


< 323 / 411 >

この作品をシェア

pagetop