ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
街の真ん中にある河川敷まで来ると、俺たちは足を止めた。
だいぶん走ったせいで、汗が流れる。
なぜか笑いが込みあげてきて、途切れ途切れの息遣いのまま、声をあげて笑う俺たち。
どれくらいぶりだろう、こんなに笑ったのは。
俺たちは自然に抱き合うと、お互いを強く引き寄せた。
「よかったわね、あのふたり」
マコが胸の中でそう囁く。
「ああ」と無愛想に答えたが、俺の頭には土下座をする彼の姿が鮮明に蘇っていた。
あの人があそこまでするとは思いもしなかった。
女好きで有名で、狙った獲物はどんなことをしても落とすと言われる鶴崎組長。
きっと直人さんの強い想いを察してくれたからこそ、潔く身をひいてくれたのだ。
今頃ふたり、うまくやってるに違いない。
「よく知らせてくれた」という俺の言葉に、マコは顔を上げて得意げに笑った。
ふたりで木陰のベンチに座る。
「いい天気ね」と言いながら、彼女は両腕をめいっぱい伸ばして空を仰いだ。
俺は生まれて初めて目の前で、互いの愛が結び合わされていくのを見た。
しかも尊敬してやまない直人さんの…
いつだったか、「愛してる」そう認めてしまった日には何もかも投げ出してその愛に逃げ込みたくなると話していたことがあったが、そんなことはない。
きっと今まで以上に彼は強くなる。
直人さん、あなたは新明亮二にならなくてすんだんですよ。
「何を考えてるの?」
隣でマコが不思議そうに顔をのぞきこんでくる。
「別に」
俺はごまかすように立ち上がると、河岸までゆっくりと歩を進めた。
太陽の光が河面に反射して、あちこちに飛び散る。
絶え間ない水音に瞳を閉じた。
なつみ園の天宮、小料理屋のキヨさん、さかいオートの浩介さん、鶴崎組長ご子息の健吾さん、そして我が橘組組長、直人さん。
どれほどの人たちが、こんな俺に愛を語ってくれたことか。
今やっとその言葉ひとつひとつが身に沁みていくような気がする。
「マコ」
返事がない。
振り返ると、彼女は驚いた顔のまま身動きしない。
「なんだ、その豆鉄砲を食らったような顔は」
「今、マコって…そう呼んでくれたの?」
「ああ、そうだ」
こんなところで照れてるわけにはいかない。
彼女から視線をそらすと、先を続けた。
「おまえを襲ったやつだが…」
俺はその男の正体と、それを指示していた人物の名を告げた。
「こうなったのも、すべて俺の責任だ。すまない」
ううん、そう言ってかぶりを振ると、彼女はにっこり微笑んだ。
「すまなかった」
「いいのよ、もうやめて。気にしてないから」