ふたり。-Triangle Love の果てに


青く生い茂った木々の葉が、彼女の顔にまだらな影を作り、揺れていた。


俺は意を決した。


「結婚してくれないか」


「泰兄…」


彼女に歩み寄ると、静かに膝をついた。


猫のような整った形の目が、俺をとらえて離さない。


そこに目頭から一筋、涙がこぼれ落ちた。


「泰兄らしくないわ。結婚してくれないか、だなんて。いつものあなたなら、強引に『結婚するぞ』、でしょ」


「ちゃかすなよ、こんな時に」


「ふふっ、ごめんなさい。今のままでいい、もう一度言って」


手を重ね合わせてくるマコ。


「いいか、俺はこんな世界にいる。おまえにウェディングドレスを着せてやることも、誰もが夢見る穏やかな生活を送らせてやることもできない。かえって、辛い目や危険な目に遭わせるかもしれない」


こくん、と真剣な表情で頷く。


「それに、だ」


続きを口にするのがためらわれたが、どうしてもこれだけは言っておかねばならない。


「よく聞け。俺がいつどこで警察にパクられるか、他の組織に殺られるかわからない。その覚悟をおまえはできるか」


真っ黒の大きな瞳が激しく揺れるも、少し間を置いて彼女は頷き、言った。


「それでも、あなたと生きていきたい」と。


「じゃあ、もう一度言う。これが最後だからな」


俺の両手が、彼女の白くなめらかな頬に伸びる。


「マコ、おまえを愛してる。結婚してくれないか」


アーモンドみたいな目が三日月に変わる。


「ええ、もちろんよ」


そう言い終わらないうちに、俺は思いっっきりマコを抱きしめていた。


これからは俺がおまえを守る。


何があっても


どんなことをしても


この命にかえても…



「泰兄、愛してるわ」


風に揺れる木の葉の静かな喝采の中、俺たちは唇を重ね合わせた。


空ではちぎれた雲が、またひとつになった。
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