ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐真琴~


『結婚してくれないか』


なんて幸せな響きなんだろう。


全てのものがキラキラ輝いて見える。


プロポーズをされた人は、みんなこんな気持ちになるのかしら…


ベッドの中。


彼は私を抱いたまま、静かに寝息を立てている。


私たちは何時間も愛し合った。


長く甘いキスから始まり、何度も見つめ合った。


一時とはいえ、できてしまったふたりの間の溝を埋め尽くすように。


「マコ、愛してる」


彼は何度も耳元で優しく囁いてくれた。


昨日まではそんなこと、一言だって言わなかったくせに。


私もまるで合い言葉のように返す。


「愛してる」と。


ようやく泰兄は眠りについたけれど、私はなかなか興奮が冷めなかった。


だって、今まで生きてきた中で最高の一日だったんだから。


眠ってしまうのがもったいない。


とことんこの幸せをかみしめて、味わいたいの。


プロポーズをしてくれた彼は、すぐに「ついでに婚姻届でも出しに行くか」って軽口を叩くように言った。


そういうところが彼の照れ隠しで、なんだかかわいい。


うん、と応じたかった私だけれど、首を横に振った。


「もう少し待って」


怪訝そうな顔つきをする泰兄。


「どうせなら、私の誕生日に出したいの」


そう答えると、ふんっと彼は鼻で笑ってゆらゆらと頭を振った。


「ったく、女ってのはくだらないことにこだわるんだな」って小馬鹿にしたくせに、すぐに「おまえの好きなようにすればいい」って、もう一度キスをしてくれた。


「ただし、キャンセルは認めないからな」


真顔でそんなこと言うから、思わず噴き出しちゃったじゃない。


ねぇ、泰兄。


あなたに手を引かれている時に思ったの。


この空の果てまで、この手を離さないでって。


私をどこまでも連れて行って、って。


だからキャンセルだなんて、するわけないじゃない。


天宮先生のおっしゃった通りね。


あなたほど愛に飢えて、愛を求めている人を私は知らない。


この広い世の中で、愛を求め続ける人はたくさんいるはずなのに、みんなそれをひたすら隠してる。


恥ずかしさや、立場がそうさせているに違いない。


ついさっきまでの泰兄も、その中の一人だった。


橘さんだって、ずっとそうだったのよね。


だけどその鎧を脱ぎ捨てて、愛を告げることができた。


勇気のいることだけれど、それはもっとその人を強くさせてくれるはず。

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