ふたり。-Triangle Love の果てに
「名前は決まったのか」
「それなんですが…」
勝平さん夫妻の言葉を聞いて、私たちふたりは顔を見合わせた。
病院を出ると泰兄が「勘弁してくれよ」とぼやいた。
本当に困ってるみたいだった。
花屋のケンちゃんに私がキスをされそうな時ですら眉ひとつ動かさなかった彼が、今は勝平さんの言葉にかなり参っている。
勝平さんは頭を下げて言った。
「泰輔さん、どうかこいつに名前を付けてもらえませんか」
「は?何言ってんだ。おまえの子だろ、おまえが付けろ」
「いえ、ぜひ泰輔さんにお願いしたいんです。俺たちは泰輔さんのおかげでこうやって家族になることができました。ですからどうか…」
「断る」
あっさり言い放った泰兄だったけれど、奥さんまでもが頭を下げて懇願する様子に、とうとう折れた。
「どんな名前でも文句言うなよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」と彼らは繰り返しそう言った。
泰兄が勝平さん夫妻のためにどう関わったのかは知らないけれど、彼らが本当に泰兄に感謝していることだけは伝わってきた。
「すごいわね、泰兄。名付け親だなんて」
からかうような私をジロリとにらむと、彼はため息混じりに返す。
「おまえが代わりに考えろ」
「だめよ、そんなこと」
「名前なんて親の願いが込められるもんだろ。なんで親でもない俺が。かいかぶるのもいい加減にしてほしいくらいだ」
「いいじゃない、本当にあなたのことを慕ってるんだから」
私は以前に勝平さんに「じゃあ、泰兄が死ねって言ったら、死ぬの?」と意地悪な質問をした時のことを話した。
「彼ね、あなたがそれを望むなら、って答えたのよ」
「とことんバカ野郎だな、あいつは」
ふんっと鼻を鳴らすと、彼は照れた様子で歩き出す。
「私もそう思ったわ。だけど、彼ね、こうも言ったの。泰輔さんは意味もなくそんなことを言う人じゃありませんって」
何も言わずに、先を歩き続ける彼。
「ステキな名前を考えてあげて」
顔をのぞきこむと、彼はニヤリと笑って私の肩に手を回してきた。
「じゃあ俺たちも帰ってから、子作りに励むか」
「なっ…!私は今から仕事なの!」
恥ずかしさのあまり、バッグを彼の腰を目がけて軽く打ち付けた。