ふたり。-Triangle Love の果てに
「ね、ね、私も見せてもらってもいいですか」
「…どうぞ」
それは涙と鼻水でところどころシミになっていた。
受け取った私は、ゆっくりと声に出してそこに書かれてある文字をひとつひとつ区切りながら読んだ。
「あ、ゆ、み」
やっぱりこんな時でもぶっきらぼうな字だったけれど、意外だったのはひらがなで「あゆみ」と書かれていたこと。
彼のことだから、てっきり難しい字が並んでいるものとばかり思っていたけれど。
「すごくいい名前ね」
にっこりして彼の方を見ると、あたりまえだ、とばかりの顔でお茶をすすった。
ひらがなで「あゆみ」。
優しい感じが溢れかえっている。
「あゆみちゃん、ほんとうにステキな名前。かわいいですね」
勝平さんも泣きながら、うんうんと頷いている。
「3人でしっかりやっていけよ」
何度も俺を言って、勝平さんは帰って行った。
あの紙を大事そうに胸に持って…
「ねぇ」
ソファーでのけぞる泰兄の膝の上に座ると、私は訊いた。
「どんなことを考えながら、あの名前に決めたの?」
「適当だ」
「嘘、知ってるのよ。一生懸命考えてたの」
「バカ言え」
「照れなくてもいいじゃない」彼の首に手を回す。
「あの3人がこれから幸せな人生を歩んでいけますように…でしょ?正解?」
「どうかな」そう言って優しく私の唇を塞ぐ。
そのままソファーに押し倒されてしまった。
「今から?」
「何か問題でも?」
「べ…別に」
「今夜は仕事は休みだろ」
「そうだけど…まだ外は明るいわよ」
「黙ってろよ、雰囲気がぶち壊しだ」
「つくづく強引な人ね」
「何を今さら」
鼻と鼻をくっつけ合うと、お互いの目を見ながらクスクス笑った。
こんな毎日が幸せで、夢を見ているよう…
抱きしめた彼のたくましい腕が、そうじゃないんだと教えてくれるけれど、でも信じられないくらい。
泰兄の激しい愛に包まれて、私はひとりの女として目覚めてしまった。
ほどなく囁くような笑い声が、甘い吐息へと変わっていった。