ふたり。-Triangle Love の果てに
「そうか」と言った泰兄の様子が別段驚いた感じではなかった。
「お兄ちゃんが、私を妹以上に想っていたことも知ってたの?」
「…ああ」
「いつからそんなふうにお兄ちゃんが感じてたのか、全然気がつかなかったの。優しくて、いつも私のことを守ってくれて…」
彼の胸に頭をもたげた。
「なのに、お兄ちゃんの気持ちを打ち明けられた時、それまでの優しさは妹としてじゃなくて女としての私に向けられてたんだと思うと、なんだか裏切られたような感じがして…」
「裏切られた?」
「うまく言えないんだけど、その優しさを素直に受け止められなくなったの。たった一人の家族だったお兄ちゃんに、女として見られていたなんて…」
再びこみ上げてくるものに、声が詰まった。
「心のどこかで、そんな優しさをけがらわしいって思ってしまったの…」
「もういい、悪かった。つらいことを思い出させてしまった」
だけど、と彼は私の髪を撫でながら続けた。
「勇作のおまえを大切に思う気持ちは、今も昔も変わっていない。ただ、その思いが独り歩きしてしまっただけのことだ」
「泰兄…」
「あいつが下心でおまえを守り続けてきたと思うか。おまえだってそうじゃないことくらい、わかってるはずだ」
不思議…
泰兄のおかげで、もやもやとしたお兄ちゃんへの感情が少しずつ解け始めていくよう。
強く打ち続ける彼の鼓動。
それを聞くたびに、愛されている、いつもそう思う。
思わず彼のその背中に手を回すと、耳元でなだめるような声がした。
「勇作にはきちんと伝えるべきだ。おまえのたったひとりの『お兄ちゃん』だろ」って。
顔を上げると、彼の指が私の濡れた頬をそっと拭ってくれた。
まるで私の心の曇りをも吹き消すように…
「天宮先生にも報告に行かなきゃね」
そんな私に、彼は苦笑いを返した。