ふたり。-Triangle Love の果てに

「目を覚ますんだ、真琴。なぜこの人をかばう?」


勢いよくその華奢な手首をつかむ。


その感触が懐かしくて、思わず力が入る。


「離して」


「泰輔兄さんと一緒にいたって、幸せにはなれない。辛い目に遭うだけだよ。ヤクザと付き合ってるだなんて、周りから白い目で見られるに決まってる。不幸になるだけだ」


「そんなのお兄ちゃんが決めることじゃないわ」


「子どもじゃあるまいし、冷静になるんだ」


「お願いだから、放っておいて」


「真琴!どうしたんだよ、一体何を吹き込まれたんだ?」


「泰兄と一生一緒に生きていく、これが私の意思よ」


「一生…?」


嫌な予感がした。


「どういうこと?」


「それは…」


言いよどむ真琴を見かねた泰輔兄さんが、俺たちの間に入った。


「おまえは先に行って車で待ってろ。俺と勇作、ふたりで話をする」


「でも…」と不安げな目で泰輔兄さんと俺を交互に見る真琴。


「大丈夫だ、何も刺し違えようっていうんじゃない。話をするだけだ。あのことも含めて」


そう言って彼はひとつしかない傘を真琴に手渡すと、背中を押した。


彼女はためらいながらも、一歩また一歩とぬかるんだ道を進んでゆく。


何度も振り返るその後姿が見えなくなってから、俺の方から切り出した。


「墓参りだなんて、真琴への点数稼ぎですか。あいつに『自分だけは違う』、とアピールしたいんでしょう。俺たち家族を不幸に陥れた組織の一員なのに」


みるみるうちに傘を持たない彼の肩を、雨は容赦なく濡らしてゆく。


「おまえがそう思うなら、そう解釈してもらってかまわない」


相変わらず相手の気持ちを逆撫でする言い方だ。


俺は彼をかわして、墓の前に立った。


濡れて色が変わった墓石には「片桐家之墓」と記されている。


血はつながっていなくとも、ここに眠っている人たちは俺の父さんと母さんだ。


どこの誰の子かもわからない、そんな俺を我が子として愛し、慈しんでくれた。


実の子である真琴が生まれてからも、それは決して変わらなかった。


彼らは俺の大切な両親だ!


「真琴は許しても、俺はあなたたちを絶対に許しませんよ」


ふぅ…と背後で息をつく泰輔兄さん。


「わかってる」それだけ言って、もうひとつ大きな息をついた。


「勇作、話しておきたいことがある」


「何ですか、早く言ってください。どうせ気分のいい話じゃなさそうですから」


サァ…と細い雨音が辺りを包む。

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