ふたり。-Triangle Love の果てに
いつしか雨はやんでいた。
すれ違う人が迷惑そうに俺を見るのに気付いて、やっと傘をたたんだ。
今にもまた降り出しそうな、重たい雲。
それを見上げたまま目を閉じて、息を深く吸った。
真琴との思い出がまぶたに映し出される。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、という甘えた声が耳をかすめる。
それらが次第に大きくなり、竜巻のように俺を包み込んだ。
笑った顔、怒った顔、恥らった顔…
そしてあの日、俺が愛を告げた時のあの顔…
俺に失望したような、あの顔も…
すべてが記憶の嵐となって、俺の中を駆けていった。
良心も、自制心も…何もかも粉々にして。
そしてその思い出自体も、砂のように原型をとどめないほどに崩れ去って…
やがて心の中が波一つ立つことのない水面のように静まり返ると、俺はゆっくりと目を開けた。
分厚い灰色の雲の切れ間から、ほんの少しだけ青空が顔をのぞかせている。
ああ、どんよりとした雲の向こうは、あんなにも澄んだ空が広がってるんだな…
俺は願う。
叶わぬ愛なら…
癒されぬ想いなら
あの澄んだ青空へ舞い上がれ、と。
そしてこの打ち砕いた記憶のかけらを、うたかたに消し去ってくれ、と。
ほどなくして、再び歩き始めた俺は、北村翠に連絡を取らなくちゃな、そんなことを考えていた。