ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐真琴~

買い物袋が手に食い込んで痛い。


今日からしばらくは泰兄が出張でいないから、簡単な食事ですませようと思っていたのに、ついつい買い込んでしまった。


勝平さんが、「持ちますよ」と言ってくれたけど、なんだか申し訳なくて。


結局どちらが荷物を持つかの押し問答を繰り返しながら、マンションの前まで帰ってきた。


「ありがとうございました」


「何かあったらすぐに連絡ください。真琴さんに何かあったら、たたじゃおかないって泰輔さんに言われてますから」


「相変わらず心配性ね、あの人」


「それだけ真琴さんを大事に想ってるんですよ」


もう…勝平さんてば。


真顔でそんなこと言うんだから。


「じゃあシトラスに行かれる時にまたうかがいます」


「ええ、お願いします」


キーを探してバッグをまさぐっていると、エントランスの隅で若い女性がひとり、小さくなってしゃがみこんでいた。


肩で息をしている。


具合でも悪いのかしら。


「どうかされましたか?」


女性の背後からそっと声をかけると、「ええ…ちょっと…」とか細い返事が返ってきた。


「具合でも?」


しきりにハンカチで口元を押さえる。


「このマンションの方ですか?」


私は膝を折りながら訊いた。


「いえ、こちらの知人宅を訪ねたのですが、留守のようで。ここで待たせてもらおうと思っていたら急に気分が悪くなってしまって…」


伏し目がちなその女性は、再びハンカチを押し当てる。


管理人室に目をやると「外出中」というプレートが出ていた。


どうしよう、声をかけた以上このまま知らん顔するわけにもいかないし…


「もしよかったら、うちで少し休んでいかれてはいかがですか。今日は私ひとりで他には誰もおりませんし」


「…よろしいんですか?」


「もちろんです」


泰兄からは、彼が不在の時に部屋に人を入れてはならないと言われていたけれど、仕方ないわよね。


状況が状況だもの。


彼女の荷物を代わりに持つと、私はオートロックを解錠した。


エレベーターホールに向かう途中、ふと気になって後ろを振り返る。


「お知り合いの方に連絡は?」


それが…と言いにくそうに首を振ったので、それ以上訊くことなく私はエレベーターのボタンを押した。
< 341 / 411 >

この作品をシェア

pagetop