ふたり。-Triangle Love の果てに


「あの、30階にお住まいなんですか?」


しばらくの沈黙の後で、ふいに彼女が口を開いた。


並んだ階数ボタンの「30」が光っているのを見てのことだろう。


「はい」


「私が今日訪ねようとしたお宅も30階なんです」


30階…


このマンションは25階以上はワンフロアーに1邸しかない造りになっている。


…ということは…


ドキリとして女性の顔をみた。


間近で見るその知的で涼やかな瞳。


右の目尻にはほくろがひとつ。


全体的に清楚な雰囲気なのに、そこだけがなぜか妙に艶っぽかった。


大人びた魅力、そう表現するにふさわしい人。


「あの、相原を…」


訪ねていらっしゃったのですか、と最後まで言えなかった。


こんな女性と知り合いだったんだ、そう思うと胸が苦しくなって息が詰まりそうになる。


彼と結婚を間近に控えた今でさえも、嫉妬に近い感情があることに気付く。


「…申し訳ないのですが、出張で相原はしばらく帰りません」


どこかトゲのある言い方をしてしまって、内心自分を責める。


「いいえ、私は」とその女性は背筋を伸ばし、先ほどまでの体調の悪さを感じさせないほどに、はっきりとした口調で言った。


「私は片桐真琴さんにお目にかかりたくて」


驚く私に彼女はにっこり笑う。


「勇作さんの妹さん、ですよね」


同時にエレベーターがの扉が音もなく開いた。
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