ふたり。-Triangle Love の果てに
「さっきの男はボディーガード?大変だね、外出のたびにああいうのがついて回って。普通の人間なら考えられないことだよ」
「嫌味を言いに来たのなら、私はこれで失礼するわ」
青白い顔を再び俺に向けて、突き放すように彼女は言う。
「まぁ、怒らないで。実は話しておかなきゃいけないことがあって」
「何?」と尖った目を俺に向けてくる。
なぁ、真琴。
もう俺には以前のように優しい眼差しを向けてはくれないのか?
あの屈託のない笑顔を見せてくれないのか?
そう思うと、刺すような胸の痛みが俺を襲った。
「実はさ…」
近々、おまえの愛する男が逮捕されるだろう。
そうなるようにし向けたのは誰だと思う?
俺だよ。
目の前にいる「お兄ちゃん」だ。
その言葉が口をついて出ようとした時だった。
「ごめんなさい、ちょっと待って…」
突然真琴が苦しげに顔を歪め、その場にうずくまった。
ただでさえ色白の顔から、ますます血の気が失せてゆく。
彼女は固く目を閉じたまま、じっと何か遠のくのを待っているようだった。
「真琴?」
「ちょっと最近いろいろあって…疲れが出たのね」
「大丈夫?」
「ええ」小さく何度も頷いたかと思うと、再び真琴は口に手を当てた。
くぐもったうめき声と共に、背中が波打つ。
持っていた鍵が、するりと彼女の手から滑り落ち、カシャン…とタイル張りの床に落ちた。
その音が、俺の中に眠っていた遠い日の記憶を蘇らせる。
あの時と同じだ。
あの時と…!