ふたり。-Triangle Love の果てに

「さっきの男はボディーガード?大変だね、外出のたびにああいうのがついて回って。普通の人間なら考えられないことだよ」


「嫌味を言いに来たのなら、私はこれで失礼するわ」


青白い顔を再び俺に向けて、突き放すように彼女は言う。


「まぁ、怒らないで。実は話しておかなきゃいけないことがあって」


「何?」と尖った目を俺に向けてくる。


なぁ、真琴。


もう俺には以前のように優しい眼差しを向けてはくれないのか?


あの屈託のない笑顔を見せてくれないのか?


そう思うと、刺すような胸の痛みが俺を襲った。


「実はさ…」


近々、おまえの愛する男が逮捕されるだろう。


そうなるようにし向けたのは誰だと思う?


俺だよ。


目の前にいる「お兄ちゃん」だ。


その言葉が口をついて出ようとした時だった。


「ごめんなさい、ちょっと待って…」


突然真琴が苦しげに顔を歪め、その場にうずくまった。


ただでさえ色白の顔から、ますます血の気が失せてゆく。


彼女は固く目を閉じたまま、じっと何か遠のくのを待っているようだった。


「真琴?」


「ちょっと最近いろいろあって…疲れが出たのね」


「大丈夫?」


「ええ」小さく何度も頷いたかと思うと、再び真琴は口に手を当てた。


くぐもったうめき声と共に、背中が波打つ。


持っていた鍵が、するりと彼女の手から滑り落ち、カシャン…とタイル張りの床に落ちた。


その音が、俺の中に眠っていた遠い日の記憶を蘇らせる。


あの時と同じだ。


あの時と…!
< 370 / 411 >

この作品をシェア

pagetop