ふたり。-Triangle Love の果てに


「…真琴、もしかして…」


はっとしたように俺を見上げる妹。


「いつから?」


「…最近わかったの。体調がずっと良くなくて。翠さんの症状と似てたから、まさかと思って市販の検査薬を試したの。そうしたら…」


「…泰輔兄さんは知ってるの?」


真琴は首をゆっくりと横に振った。


「どうして」


「……」


「どうして言わないんだ?」


「彼にはしばらく内緒にしててほしいの」


真琴はそう言うなり、突然俺の胸にすがりついてきた。


「お願い!知らなかったことにして!彼、なんだか最近大変なことを抱えてるみたいなの!だから…」


頭の中が真っ白になっていた。


なんてことだろう。


真琴の警戒心を解くために練った「翠の妊娠」のシナリオ。


その罰が今こんな形で下されるなんて…


目の前の真琴の中に、新しい命が宿っている。


泰輔兄さんと真琴の間にできた、小さな小さな命…


「泰兄には折りを見てちゃんと話すわ。でも今は…」


全身が熱くなったかと思うと、次の瞬間にはもう鳥肌がたつほどの悪寒が俺の背中を走っていた。


「ね、お願いよ、お兄ちゃん」


「…ああ、わかったよ」


よかった、と安堵の笑みを浮かべると、真琴はそろりそろりと立ち上がった。


俺が落ちていた鍵を拾って渡す。


「ありがと…」


「そんな身体じゃ、バーテンダーの仕事はきついだろう」


「ええ、正直つらいわ。でももう少ししたら、彼とちゃんと話し合ってどうするか決めるわ」


「それがいい…」


「で、お兄ちゃんの話って何?」


「え…」


口ごもる俺。


真琴が妊娠しているなんて思いもよらなかったから。


こんな状況で、「あのこと」を口にできるはずもなかった。


「大したことじゃないから、また日を改めて来るよ。身体に気を付けて」


「ええ、ありがとう」


「うん、じゃあ、また」


平静を装うのに必死だった。
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