ふたり。-Triangle Love の果てに


警察がやって来るまでの間、俺は残された時間をマコだけのために使おうと決めた。


彼女に触れた時のその感触を身体に刻みつけるように、一瞬一瞬をかみしめるように過ごした。


だがそんな俺にマコは何かを感じ取ったのか、不安げに身を寄せてくる。


その瞳は相変わらず猫のようで、さらに憂いを帯びたその色は、見る者をどこまでも引き込むようだった。


俺がパクられた後こいつは一体どうなるのだろう、そう思うと最近はなかなか眠りにつけずにいた。


この指に絡めた波打つ黒髪。


この胸に熱く広がる彼女の吐息。


抱きしめた時に伝わってくる、しなやかな身体のライン。


全てが愛しい…


ある夜、俺はマコに言った。


「おまえの名前のカクテル、MAKOTOを飲ませてくれないか」と。


そのカクテルは、マコの親父さんがコンクールに出したいと願っていたものだ。


俺の胸に委ねていた身体を少し起こすと、彼女は「でも」とためらい顔を見せる。


「未完成でもかまわない。今の時点でおまえの頭にあるレシピで作ってくれないか」


「どうしたの、急に」


「飲みたいんだ、頼む」


「いいけど、自信ないわ」


マコは無造作に髪をまとめると、キッチンに立った。


シェーカーやナイフ、グラスを一通りそろえると、瞳を閉じて大きく深呼吸をした。


次に目を開いた時には、そこにはバーテンダーとしてのマコがいた。


素早く分量を量り、シェーカーへと移す。


氷の入ったシェーカーはカラッカラッとリズミカルな音を立てながら、マコの手の中で踊る。


手に伝わる冷たさで、そのカクテルの一番うまい温度を見極める。


その真剣な目。


その凜とした横顔。


全神経を手に集中させている。


氷の音が止んだ。


ロンググラスに注がれたのは、ピンクに近い淡い紫色の液体だった。


ただ黙って、俺はグラスに手を伸ばした。


マコの視線が俺の口元に注がれる。


一口含むと、甘酸っぱさが口全体に広がった。


かと思うと、時間が経つにつれてじわじわと舌に濃厚なジンが後を引く。


「レシピは?」


「教えられないわ。だっていつかコンクールに出したいもの。盗作されたらたまらないわ」


「するかよ、そんなこと」


ふたり、顔を見合わせて笑う。


俺はもう一口、カクテルを口に含んだ。
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