ふたり。-Triangle Love の果てに
「…どう?」
笑みが消え、心配そうにマコは俺の様子をうかがった。
「いいんじゃないか」
グラスをカウンターに置くと、俺はそっけなく伝えた。
「もっと他に言うことはない?前はあれだけ文句をつけてたじゃない、ファーストフードのシェイクだとか言って」
「そうだったか?」
「そうよ」
「仕方ないな、じゃああと一言だけ」
期待と不安の入り交じった瞳が俺に向けられる。
「おまえらしさが出ていて、いいんじゃないか」
「なにそれ、ものすごく抽象的」
すねた顔のマコ。
だからおまえらしいんだ。
大人の魅力をたたえながらも、まだどこかしら子どもらしさが抜けきれない、そんな色をこのカクテルはしている。
味もそうだ。
さわやかで一瞬柑橘系のジュースを思わせるが、後から効いてくる大人の味わいはおまえそのものだ。
マコ、おまえは初対面の人間には、明るく快活なイメージを与えるだろう。
だが共に過ごす時間が長くなればなるほど、内面からにじみ出る艶っぽさ、憂いに惹かれてゆく…
まさしくおまえらしいカクテルだ。
「これなら親父さんもきっと喜ぶ」
「本当に?」
「ああ」
マコはとびっきりの笑顔を俺に向けた。
「ところで俺が贈ったバーテンダーナイフはどうした。なぜ使わない」
ああ、あれね、と彼女は舌を出した。
「あれは私が自分のお店を持った時に使うの。それまで取っておくの」
「前みたいに使い方を間違えるなよ」
俺の正体を知った夜、あのナイフを首に突きつけたマコ。
それをからかうように言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめて「もうやめて。だいたいあれは泰兄が悪いんじゃない」とうつむいた。
そんなマコの一挙一動を忘れまい、と俺は目にその姿を焼き付けた。