ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐勇作~
あれ以来、悶々とした日々を過ごしている。
真琴が妊娠している。
それを知ってしまった俺は、とてつもない後悔に襲われていた。
生まれてくる子から、父親を奪ってしまう。
泰輔兄さんに対する嫉妬と復讐心から起こした俺の行動のせいで。
森に託したフラッシュメモリが県警に渡り、組織犯罪対策課が捜査に乗り出しているのは北村翠から聞いて知っている。
「あと数日で逮捕状が出るんじゃないかしら」
安いホテルの一室で、彼女は俺の胸の中でそう言った。
「最近の勇作、元気がないわ。やっぱり真琴ちゃんから彼を奪うことにためらいがあるとか?」
「…そんなものあるわけないよ。それに、今さらそんなこと言っても遅いしね」
「本当に?」
「しつこいな」
俺はムッとしてベッドから出ると、カッターシャツに袖を通した。
「ごめんなさい」
慌てて取り繕うように、翠も身体を起こす。
「ね、それよりもいつ両親に会ってくれる?考えたんだけど、来月のはじめの…」
「悪いけど」
「え?」
「悪いけど、俺はまだ結婚なんて考えられないんだ」
「…ちょっと待ってよ」
全裸のまま、俺の目の前に立ちはだかる翠。
「そんな!この件が終わったら結婚しようって言ったじゃない。そう思って私は危険なことまでして相原のパソコンからデータを取ったのよ!あなたのために!」
「じゃあ訊くけど、浅井刑事と寝たのも俺のため?」
目の前の女が一瞬にして凍り付いた。
血の気がみるみるうちに引いてゆく。
「寝たよね、あの刑事と。俺は接触して情報を仕入れてほしいとは言ったけど、君がその身体を差しだすとまでは思わなかったよ」
「それは…」
「否定しないんだね」
最低だ。
俺という人間は、最低最悪のクズだ。
翠を利用し、浅井刑事とそうなることを見越して接触させたのに、今はこの通りだ。
恋人が情報収集のために身体を捧げたなんて信じられない、ってふりをしてる。