ふたり。-Triangle Love の果てに


心が痛まないわけじゃない。


俺はやっぱり真琴以外の女を愛せないんだ。


翠、君を好きになろうと努力したこともあったよ。


だけど、どうしても無理だった。


「他の男と関係を持ってたことを知って、君と簡単に結婚はできないよ。だからこの話はなかったことにしてほしい」


俺はこの上もない非情な言葉を口にした。


「ひどい…」


彼女は両手で顔を覆い、泣きじゃくる。


「ひどいわ」


小刻みに肩を震わせる彼女に、俺はバスタオルをそっとかけた。


「勇作…」


真っ赤な目が「嘘だと言って」と俺を見つめてきた。


「ごめん」


「謝るくらいなら、考え直して!」


俺は良心の呵責から歪む顔を見せまいと、彼女に背を向けた。


それをかえって「拒絶」ととらえたのだろう、その場に翠は泣き崩れた。


対照的に、黙々とシャツのボタンを留める俺。


靴を履いて、ドアに向かった。


「ごめん、翠」


そう言い残して、分厚いドアを閉める。


それでも廊下にまで彼女の泣き声は響いた。


安っぽい赤い絨毯を踏みしめながら、俺は心底自分を最低だと罵った。



自分のしでかしたことに対するけじめも、心の整理もつかないままに時間だけは非情に流れていった。


翠と別れて数日後、社内の俺専用のパソコンに森からメールが届いた。


昼休みに近くの公園で待ってる、とのことだった。


こんな炎天下にわざわざ外で会おうだなんて、きっと人に聞かれたくない話、つまりあの件についてだろう。


了解、と短い返信をするとデスクの引き出しをあけた。


そこには一枚の写真。


バーテンダーになったばかりの硬い表情の真琴と、隣でそのことを自分のことのように嬉しそうに笑う俺。


あの頃は幸せだった。


たとえ愛してると伝えられなくても、一番近くにいられた。


その笑顔も、化粧をしていない素顔も、怒った顔も寝ぼけた顔も、全て俺だけのものだった。


真琴…俺は兄貴としておまえに出逢ったことを恨むよ。


「お兄ちゃん」としてではなく、ただの男と女として出逢っていたら、おまえは俺を愛してくれただろうか?


俺の愛を受け入れてくれただろうか?


そんなことを思いながらしばらく天井をぼんやりと眺めていた。


いや、たぶん無理だっただろうな。


泰輔兄さんにはかなわない。


あの男らしい潔さ、風格、賢さと行動力、何をとっても完全に俺の敗けだ。


もたれた椅子の背もたれが、ギィと苦しげにきしんだ。
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