ふたり。-Triangle Love の果てに
いつか翠が言ってた。
『真琴ちゃんみたいに、自分の誕生日に婚姻届を出すのも悪くないわね』って。
その時は何気なく聞いていて、気にも留めなかった。
今さら思い出すなんて…
明日は真琴の誕生日だ。
あいつにとっては一生の記念となる日だ。
「おーい、そんなに慌ててどうした」
玄関ホールでのんびりした声に呼び止められた。
「森…」
息が切れて、声もかすれる。
「いよいよ今夜だな、相原の逮捕状執行。県警の刑事さんに頼んで、その瞬間を撮らせてもらうことになったんだ。明日の朝刊にバッチリ載るぞ」
「写真、撮るのか?」
息の乱れがなかなか収まらず言葉が途切れる合間に、森はペラペラと一方的にしゃべる。
「いやぁ、おまえには本当に感謝してるよ。こんな大きなネタをつかんできてくれて」
「だったら頼みがあるんだ」
「おお、何だよ。何でも言え」
得意げに胸を張る森に俺は言った。
「相原連行は今夜なんだろう、そこに俺も同行させてくれないかな」
彼の顔が笑顔のまま固まった。
「は?おまえ、まさか変なことする気じゃないだろうな」
泰輔兄さんと同じ施設出身の俺が、同情して彼を逃がすとでも思ったのだろうか、森は疑った目を向けてくる。
「しないよ、今さらそんなこと。だいたい彼を追い詰めるために、今回のネタをつかんだんだ」
「そりゃあ、まぁそうだけど」
「彼と話をさせてほしいだけなんだ。ただそれだけなんだ」
明らかに困惑する同期。
「だけどさ、県警のやつが何人も張ってるんだぜ、相原に接触なんて無理だって」
「そこは何とかする。森にはフォローを頼みたいんだ」
「フォローっておまえなぁ…」
グシャグシャと髪をかきむしり、渋る森に俺は詰め寄った。
「いいか、森。今のおまえがあるのは誰のおかげだよ」
「ゆ…勇作」
俺の形相に、森はたじろぐ。
「大学の卒業論文にはじまって、新入社員のコラムコンテスト…」
「やめろよ、こんなところで。みんなが見てるだろ」
「まだある。全部ここでぶちまけて、みんなに聞いてもらおうか」
「わかった!わかったからやめてくれ!」
汗が彼の額から滝のように流れていた。
それは暑さのせいじゃないのは明らかだった。