ふたり。-Triangle Love の果てに
「今日の午後5時から橘組の事務所前に警官が待機する。だいたいこの時間帯に相原は事務所にいることがわかってるからな。出てきたところを押さえて、そのまま事務所の家宅捜索に入るらしい」
襟元を正しながら、彼はあきらめたように言った。
「ありがとう、恩に着るよ」
「頼むから変なことはしないでくれよ」
わかってるよ、と答えると俺は社を後にした。
時間を確認する。
真琴はシトラスのバイトに出る頃だな。
彼女に電話をかけるも、呼び出し音が繰り返されるだけだった。
焦りは募る。
こうなったら…
俺は高く手を挙げて、タクシーを止めた。
シトラスの店のドアを勢いよく開けると、ふたつの驚いた顔が何事かとこちらに向けられた。
「お兄ちゃん!?」
手を拭きながら、エプロン姿の真琴がカウンターの中から出てきた。
「お久しぶりね、勇作さん。暑かったでしょう、さあこちらにどうぞ」とゆり子さんがかつての俺の指定席を勧めてくれた。
「実は、ちょっと真琴をお借りしたいのですが」
「何なの、お兄ちゃん。今、仕事中なのよ」
「ゆり子さん、お願いします」
頭を下げる俺に、彼女は「ええ、どうぞ。明日で真琴ちゃんは人妻になっちゃうものね。最後の日くらい兄妹でゆっくりして」と優しく言ってくれた。
「ありがとうございます」
俺は真琴の手を引き、店を出た。
「体調はどう?」
「つわりが少しきついくらいかしら」
「泰輔兄さんにはまだ言ってないんだろう?」
「うん」
「そっか…」
「それより何かあったの?お兄ちゃんがそんなに慌ててるなんて珍しいわ」
俺の頭のてっぺんから足のつま先まで眺めると、彼女はくすっと笑った。
汗だくで、カッターシャツもよれよれの俺。