ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
橘組の事務所は重苦しい雰囲気に包まれていた。
俺の逮捕が近いと知ってか、皆一様に無口だ。
当の本人は、とっくに覚悟はできているというのに。
「泰輔、ちょっといいか」
直人さんに呼ばれ、応接室に入った。
座れと目配せされ、彼の正面に腰かける。
「もうそろそろか?」
「はい、今週中には県警の連中が来るでしょう。そうなればここも家宅捜索になるはずです」
「その点は心配ない。ヤバイものは全て処理しておいた」
「そうですか」と安堵の息をついた俺に、直人さんは身を乗り出して訊いてきた。
「彼女には話したのか」
答える代わりに、小さく首を横に振る。
「あいつには、俺にもしものことがあった時は、身元がわかるものを全て持ってマンションを出るようにと言ってあります」
まるで俺の気持ちを察したかのように、直人さんが「そうか」と苦しげに顔を歪めた。
「おまえにも彼女にも申し訳ないことをした」
「何をおっしゃいます。圭条会のためになるのであれば、願ってもないことです」
彼は微かに笑うと、煙草を勧めてきた。
ありがたく頂戴する。
火を点けようとすると、ライターを持った彼の手がこちらに伸びてきた。
「ありがとうございます」
先端の赤く染まった煙草をくわえ、思いっきり吸い込んだ。
初めて吸った時にも、こうやって直人さんに火を点けてもらったな。
あの時はむせてむせて…
二度とこんなもの吸うかと思ったが、いつの間にか手放せなくなっていた。
しばらく無言のまま、それをふかし続ける。
「入籍はまだだったな」
「明日、届けを出そうと思っています」
「明日?今日にでも出しておけよ」
俺だってすぐにでも出したい。
明日はどうなるかわからない身だから。
「あいつが届けを出すのは自分の誕生日にしてくれと言い張りまして。女という生き物はくだらないことにこだわるもんですね」
直人さんも納得したのだろう、ふたりして笑った。