ふたり。-Triangle Love の果てに
それからまたしばらくの沈黙。
煙草の先端の灼ける小さな音すらも、はっきり聞こえるほどだ。
だが、その静けさに苦痛を感じることはなかった。
今までの人生を振り返るにはちょうどいい。
きっと目の前に直人さんも、俺と出会った頃を思い出しているに違いない。
施設を出てパチンコ店で判を押したような刺激のない生活を送っていた俺が、ひょんなことから彼の運転手になった。
世の中は厳しい、どんなに努力しても人生負けることのほうが多いのだ、それを教えてくれたのはこの人だった。
だから数少ない勝者になるために、俺は無我夢中で勉強した。
それこそ寝る間も惜しんで。
英語、中国語、経営学、経済学、法律、マナーや料理、酒に至るまで。
役に立ちそうなことは何もかも吸収した。
それをつらいと思ったことはない。
生き残る唯一の術だと知っていたからだ。
いつの間にか短くなっていた煙草を、灰皿に押し潰した。
直人さんもそれに続く。
火が完全に消えたのを確認すると、俺は立ち上がり頭を下げた。
「長い間、お世話になりました」
いろいろと洒落た言葉もあったのだろうが、それしか思い浮かばなかった。
「泰輔」
名を呼ばれて顔を上げると、直人さんの手が俺に差しだされていた。
「ご苦労だった。これからも大変だろうが、頼んだぞ」
「はい」
俺は両手でしっかりその手を握った。
その固い握手で再確認した、俺と直人さんの絆。
「身体に気をつけろよ」
何年かぶりに、胸に熱いものがこみあげてきた。