ふたり。-Triangle Love の果てに
ブラインドの隙間から、紫がかった空が見える。
指でその隙間を押し広げると、細くて今にも折れてしまいそうな三日月が浮かんでいた。
そう言えば昔、天宮が言ってたな。
あんな形の三日月は、「月の船」なんだって。
好きな相手のもとに、空を渡って気持ちを届けてくれるんだって。
天宮の亡くなった恋人への思いが、あいつにそんなことを言わせるんだと馬鹿馬鹿しく思っていたが、今はなんとなく共感できる。
マコと離れ離れになったなら、プライドも何もかも捨てて、あの月に願いを託してみるか。
どこにいても、何をしていても、おまえを想っている、と。
「お疲れさまでした」
「ああ、お疲れ」
いつもは威勢のいい若い衆の声も、どこか気落ちしている。
大丈夫か、俺がいなくなっても。
こいつらはちゃんと組長である直人さんのために動けるのか。
心配はつきない。
勝平が「泰輔さんが戻られるまで、俺が目を光らせておきます」なんて言っていたが、どうなることやら。
事務所を出ると、外の生暖かい空気をいっぱいに吸い込んだ。
以前は「暑いな」で終わっていた俺も、ここ数日は「生きてる」そう感じるようになっていた。
マコが知ったなら、年寄りくさいとからかうに違いない。
夜の街へと歩き出す俺を、あの三日月が音もなく付いてくる。
時折立ち止まって空を眺めた。
なぜなら、俺の後をつけてくる足音に気付いたからだ。
そして再び歩き出すと、その靴音も俺を追ってきた。
くそ…よりによって今日かよ。
明日まで待ってくれてもいいものを…
明日はあいつの誕生日なんだ。
明日、俺たちは…
「すみません」
明らかに俺の背中にかけられた声。
目を閉じ大きく息をついてから、俺は声がした方を振り返った。