ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐勇作~


あそこにも、向こう側にも…おっとここにも…


人混みに紛れる刺客、そんな感じだろうか。


彼らは、ネオンの色鮮やかな光の中でカップルを装っていたり、同僚と飲みに繰り出したサラリーマンに扮していたり、路上で座り込む物憂げな若者になりきってみたり…


でも俺にはわかっている。


その正体が警察官であるということを。


彼らはそれなりの役を必死で演じているが、目だけはある場所をとらえて離さない。


圭条会橘組事務所。


その狙いは若干30歳そこそこで組長代行まで務めた組のナンバー2、相原泰輔。


彼が出てくるのを息を潜めて待っている。


しかもこんな大勢で、手の凝ったことをして。


あんたらは泰輔兄さんのことを何もわかってないね。


彼は突然に警察官に囲まれたって、逃げも隠れもしない。


素直に手首を差し出す。


そんな人だよ。


ある意味、男らしくて潔い人だ。


正々堂々と事務所に乗り込めばいいものを、まあ、相手がヤクザだから仕方ないのかもしれない。


何が起こるかわからないから。


だが、そんな警察のへっぴり腰具合が今の俺にはちょうどいい。


そんなことを考えながら、俺はショルダーバッグを肩から提げ、冴えない格好でその辺り一帯をぶらついていた。


首からは社員証をかけているので、一見何かの取材のように見えるはずだ。


あたりをキョロキョロとしては、めぼしい店を探しているふりをする。


だけどこれが俺の目的じゃない。


俺のターゲットもそう、相原泰輔。


ひとつ大きな息をつくと、さりげなく辺りを見回した


ふと物陰に隠れている人物と目が合う。


森だ。


その目はくれぐれもおかしなことをするなよ、と語っていた。


わかってるよ、と心の中でつぶやき小さく頷く。


彼は、決定的瞬間をレンズに収めるために待ち構えている。


そう、相原泰輔、逮捕の瞬間を。



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