ふたり。-Triangle Love の果てに
しきりにハンカチで口元を押さえ、捜査員からの視線を遮る。
この会話を悟られないように。
周りからは取材の交渉をしているように見えているだろうか。
次に俺は、手を合わせて大袈裟に頭を下げた。
「お願いですよ、相原さん。ぜひインタビューさせてください」
捜査員に対して、取材拒否にあった憐れな記者、どうかそう思ってくれ、と心の中で叫びながら。
頼むよ、泰輔兄さん。
時間がないんだよ…
だが、彼は圧し殺した声で答えた。
「それはできない。俺は、仮にも組長代行まで務めた男だ。サツが怖くて逃げ出したなんて言われてみろ、恥さらしもいいとこだ」
「そんなことを言ってる場合じゃ…」
思わず顔を上げた俺。
「おい怪しまれるだろ、最後までちゃんと演じろよ、中央新聞社の片桐さんよ」
そう言って、手渡したばかりの名刺を指で弾く。
彼は余裕の笑みすら浮かべていた。
「逃げてください、お願いします。真琴をひとりにしないでください」
真琴、その名前に彼の表情が一瞬強ばった。
「…おまえは」
そこで一度言葉を切ると、泰輔兄さんはさらに俺に近づいた。
「おまえは俺からあいつを取り戻したかったんだろ。その望みが今叶うんだ。なのになぜ今さらこんなことを言う」
それは…
それは真琴の中にあんたの子が宿ってるからだ…
でも言わないでくれと懇願する彼女の顔がちらついた。
「とにかく!とにかく言う通りにしてください!」
「断る。それにいつかこうなることを覚悟した上で、あいつは俺と一緒にいたんだ」
「泰輔兄さんっ」
カッとなった俺は彼の両腕をつかみ、前後に揺さぶった。
「真琴は…!」
「あいつに伝えてくれ。もうこうなった以上、俺のことは待たなくてもいい、と」
「そんな無責任な…!」