ふたり。-Triangle Love の果てに
その時だった。
四方から俺たちに向かってくる何人もの人影が目の端に映った。
捜査員がものすごい形相で向かってくるのが、まるでスローモーションのようだった。
ふぅと一つ大きな息をつくと、彼は両手をポケットに突っ込み声を殺して笑った。
くっくっくっ… と。
「これで俺も憧れのムショ生活か」って言いながら。
昔と変わらない、何もかも悟ったようなその笑い方。
無性に腹が立った。
なんだっていうんだ、その笑いは。
何もかも自分はわかってる、世の中の不条理も全部知り尽くしている、だから抗っても仕方ない、そう言いたいのか?!
じゃあ、あんたは真琴の何をわかってる?
あいつの体の変化に気付いてたのか?
そしてあいつが今どんな想いであんたを待ってるか。
全部わかってるっていうのか?
ありったけの力をこめた拳を俺は振り上げた。
涼しげな泰輔兄さんの瞳が、憎らしかった。
俺の拳は、その顔をめがけて一直線に伸びていった。、
「県警組織犯罪対策課です」
その言葉を皮切りに、俺たちはあっというまに数名の私服警察官に取り囲まれた。
俺は屈強な刑事たちに羽交い締めにされる。
その中に翠と寝た浅井警部補の姿もあった。
「相原泰輔さんですね、ここでは何ですから、署までご同行願えますか。もし拒否されだ場合は…」
「しませんよ、そんなこと」
肩をすくめて苦笑いする泰輔兄さん。
「ああ、中央新聞社の…えっと…」
額に手を当て、わざとらしく視線を宙に泳がせ俺の名前を思い出そうとしている。
こんなときにでも俺と初対面を装ってくれるつもりらしい。
「最近物忘れがひどくて。さっき聞いた名前なのにな」
少し遅れて警察車両だろうか、数台が一斉に幾重にもこの集団を取り囲む。
「そういうわけだから、取材は無理だ。悪かったな」
軽口を叩くようにそう言った彼の目が、寂しげに光った。
あいつを頼む…
そう瞳が語っているように思えた。