ふたり。-Triangle Love の果てに
「…お兄ちゃん」
かすれた声。
俺はとても懐かしい音色を聴いたような思いで、胸がいっぱいになる。
「花嫁が式の前に何をしてるんだい?せっかくのドレスが汚れてしまうよ」
彼女の足下には、一面のクローバー。
「来てくれたの?」
「天宮先生が、妹の結婚式に出ない兄貴がどこにいるんだ、って」
「じゃあ式に出てくれるのね」
「それは…」
言葉を濁した俺の意図を察した彼女。
小さく首を振ると「そう、仕方ないわよね。でも会いに来てくれただけでも嬉しい、ありがとう」と涙声になった。
「真琴」
俺たち兄妹は引き合うように歩み寄る。
泰輔兄さんが逮捕されてから、真琴は俺の前から姿を消した。
お腹に子どもを抱えて一体どうするつもりなのか、俺は気が狂ったかのように何日も何日も捜し続けた。
ここ、なつみ園には真っ先に足を運んだ。
なぜなら、ここしか妹が頼る場所はないと思ったからだ。
でも、天宮先生は「ここに真琴は来ていない。もし来るようなことがあれば連絡する」なんて言っていたくせに。
先生も人が悪い。
その時点で、すでに真琴はここにいたのに。
あれから3年。
突然、最近になって天宮先生から電話があり、初めて事実を知らされた。
そして式を挙げることもその時に聞いた。
正直出席はできない、そう思った。
俺はやはり両親を奪ったあの事件をまだ許せなかったから。
だけど、一目真琴に会いたかった。
それだけは抑えようにも抑えきれるものではなかった。
「あれからここで世話になってたんだって?ここにもおまえを捜しにきたんだよ。でも天宮先生にしてやられたよ」と苦笑する俺を、真琴はじっと見つめてくる。
「心配してたんだ。あんな身体でどこ行ったんだ、って」
「ひとりで産んで育てようと思ったんだけど、事件を知った天宮先生から連絡があって…。なつみ園の事務職員がひとり抜けたからやってもらえないかって…」
先生らしい手の差し伸べ方だと思う。
「俺のところに来ればよかったのに」
「そんなことしたら、お兄ちゃんに甘えちゃうでしょ?距離を置いたのは、私の方なのに」
何言ってるんだよ、甘えてよかったんだ。
とことん甘えてよかったんだ…!
兄妹だろ、俺たちは…
いや、おまえがそう思わなくなるようなことをしたのは、紛れもなく俺だ。
おまえに兄妹の絆を壊すような酷いことをした上に、つまらない嫉妬心で泰輔兄さんとの間を引き裂いた。
お腹の子から、俺は父親を取り上げたんだ。