ふたり。-Triangle Love の果てに


「今、おまえは…」


「訊かないで」


真琴が俺の言葉を遮った。


「真琴?」


「幸せかって訊こうとしたでしょ?そんなこと訊かないで」


「……」


「だって幸せに決まってるじゃない。だからわざわざ訊かないで…」


みるみるうちに顔が歪んで、涙がいくつもこぼれ落ちた。


「私はずっとずっと幸せだったわ。小さい頃から変わらずに。だって私にはお兄ちゃんがいたから」


真琴…


「穏やかで優しいお兄ちゃんの愛に包まれて、私はずっと幸せでした」


「ははっ、おまえ何言って…」


そこまで口にして気付いた。


俺の頬にも熱いものが伝っていたことを。


「泣くんじゃないよ、真琴。せっかくのメイクが落ちるよ」


「お兄ちゃん…」


両手で顔を覆い、肩を震わせる妹。


お兄ちゃん、と何度も繰り返しながら。


「本当に、ありがとう」


「参ったな、父親の気分になちゃったよ。さ、顔を上げて」


軽く肩を揺すると、涙で濡れたまつげの真琴が俺を真っ直ぐに見た。


「泰輔兄さんと仲良くやっていくんだよ」


もう二度と、俺はおまえたちの前に現れたりしないから…


ゆっくりとこの手を差し出す。


「神さまに誓う前に、俺にも誓ってほしい。今以上にもっともっと幸せになるって」


「…うん」


「そんなんじゃ聞こえないよ。ほら、ちゃんと誓って」


「ええ、誓うわ」


真琴が俺の手を握り返した。


強く、強く。


「よし!」


握り合った手を何度か上下させると、俺は力を緩めた。


「もう行くよ…会えてよかった」


「私もよ」


「本当にきれいだよ、真琴。おめでとう」


はにかむ妹。


「また美月にも会いに来てくれる?」


「…ああ、いつかまた」


そう頷くと、俺はもうつかむことのない手を、そっと離した。


さようなら。


真琴。


俺の大切な妹…


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