ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐真琴~
大きな十字架を見上げた。
幾度となくこの前に立って祈りを捧げたけれど、こんな形で今日という日を迎えられるとは思ってもみなかった。
目の前には、神父さまの格好をした天宮先生。
「おっそいなー、あいつ」としきりに時間を気にしている。
なつみ園の子ども達も長椅子に腰かけ、暇を持て余している。
とうとう待ちくたびれて、ぺちゃくちゃとおしゃべりをして天宮先生に怒られてしまった。
「ったく、新郎が遅刻してどうすんだよ」
そんな天宮先生に、診療所の辻本先生がまぁまぁとなだめた。
もう予定の時間を30分も過ぎている。
彼が収監されていた刑務所からここまでは、車で2時間ほど。
もうとっくに着いていてもいいはずなのに、と皆は思っている。
だけど、私は全然気にならない。
ううん、気にしていないふりをしてる。
本当はドキドキしてるくせに。
彼を信じてる。
ここに必ず来てくれるって。
私と美月のところに戻ってきてくれるって。
そう信じてるのに、でもちょっと不安…
長いようで短かったこの3年あまり。
一日一日を彼への愛を支えにしてきた。
そして美月がいてくれたからこそ、耐えられた彼のいない夜。
暗闇の中、道を照らしてくれる煌々と美しく輝く月のように、私の生き甲斐だった娘。
愛する人との間にできた、奇跡の子。
今日という日を夢見て生きてきた。
なのに、その夢が今叶うことに私は少し怖じ気づいている
「ママ、抱っこ」
その美月がぐずって身を寄せてきた。
「もうすぐパパが来るのよ。そんなお顔をしないでね。ニコニコの美月をパパはきっと見たいはずだから」
「みぃちゃん、私が抱っこしてあげる」
幼なじみののぞみが美月を抱き上げてくれた。
「何してるのかしらね、みぃちゃんのパパは。こんな大事な日に遅刻だなんてね」
のぞみの言葉に、辻本先生も奥さんの綾乃おばさまも顔を見合わせて苦笑い。
大丈夫よ、きっと来るから…
そう念じながら握りしめた拳に、白くて細い手が重なった。
「真琴ちゃん、花嫁さんがそんな顔をしちゃダメ。泰輔くん、きっと久々の運転で手こずってるのよ」
そう優しく言ってくれたのは、綾乃おばさまだった。
「とてもきれいよ。彼もびっくりしちゃうわよ」