ふたり。-Triangle Love の果てに


「ほうら、美月」


そう言って腕を広げたのは、泰兄だった。


「おいで」


美月、と何度もその名を優しく呼ぶ。


その声にほだされるように、みるみる美月の強ばった顔から力が抜けていった。


のぞみの胸を離れ、一歩ずつ彼の方へと歩いてゆく。


そして確認するように私の顔を見た。


いいのよ、美月の世界でたったひとりのパパなんだから…


私が頷くと、まだ頼りないその小さな腕を泰兄に伸ばした。


「いい子だ」


彼が小さな美月を抱き上げる。


高い高いをするその顔は、まさしく父親そのもの。


「俺がおまえの父さんだ。どうだ、いい男だろ」


周りからブーイングと笑いが起きる。


小さい子が苦手だ、なんて言ってたのが嘘のよう。


泰兄と目が合った。


おまえもこっちに来いと、言うようにもう片方の手を広げる。


彼は私と娘を強く強く抱きしめた。


親子3人、もう二度と離れない。


決して…


「よぉし!みんな教会に入れ!式を始めるぞ」


パンパンと手を打ちながら、天宮先生が声を張り上げる。


「泰輔、花なんか買ってるから遅くなるんだよ。心配しただろ」


落ちたままのバラのブーケを拾うと、砂を払って泰兄に渡す。


「それと真琴。次はバージンロードをちゃんと歩いて来いよ。さっきみたいに逆走する花嫁なんて初めて見たぞ。おまえら、ほんっとに世話のかかるやつらなんだから」




大きな十字架の前。


愛する人と向かい合う。


「愛は寛容にして慈悲あり。愛はねたまず、愛は誇らず、高ぶらず…」


天宮先生の声が、教会中に響き渡った。


どこまでも澄み切っていて、心にすっと溶けてゆくような声が一段と大きくなる。


「愛はいつまでも絶ゆることなし」


そして私たちは、永遠の愛を誓った。
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